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『虎に翼』第5回 我が子を守る母虎ほど猛々しいものはない

 寅子は穂高の勧誘を受け、明律大学女子部法科で学びたい。そう母・はるに告げるものの、はるは娘の希望に向き合おうとしません。
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母も、かつては閉じ込められた娘だった

 はるはここで、寅子が優秀であることを認めます。だからこそ、女学校に進ませた。朝ドラヒロインは女学校に進むことがお約束です。寅子も時代はセーラー服ですが、それより上だと袴姿が定番です。朝ドラヒロイン女優が袴姿でニッコリ笑う姿はニュースの定番です。
 そうはいってもそんなものは上層階級一握り。平成令和を描いたドラマでヒロインが大卒留学経験が当然たとすれば「ん?」と引っかかりますよね。そういうことを朝ドラはしている。史実通りならともかくとして、『わろてんか』のようなモデルが下層階級出身苦労人でも上方修正したのはなんなんですかね。
 本作はモデルからして高学歴なので、そこは史実通りです。かわりに母の過去を入れてきます。

 はるだって勉強が好きだった。女学校に行きたかった。でも5人きょうだいの4番目ではそれが許されない。その母は、娘を高等小学校にまでしか進ませず、あとはどこに嫁がせれば旅館にとっていいかばかり考えていた。それが嫌で、はるは父と結婚した。
 これも残酷です。男からすれば、それはもうロマンチックで甘い出会いだったことは先日の会話からわかります。穂高ですらそのシナリオに乗っかっていた。でも、女からすれば逃避の手段でした。むろん、今は結婚してよかったと思っているそうですけれども。こういう夫婦って多かったものですよね。聞き覚えがあります。
 自分の母のようにならず、我が子の幸せを考える母になろうとはるは決意した。その生き方や信念に反論されて、はるはくやしくもあるのでしょう。はるにはわかる。法律を学んで、もしも失敗したらどうするのか? うまくいかなくなったら? どうせあの能天気な父は安請け負いをしたことまで見抜いています。ここのはるから、この家族は母の方が聡明で見通す力があると見えてくるようでもあります。鈍感な直言はいろいろ気づいていないことが多いんでしょうよ。
 そしてこうきた。

「頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い女のふりをするしかないの」

 はるの実感からもわかります。賢い女は頭の悪いふりをしなければ幸せになれないのだと。あー……地獄だ! これは朝ドラ構造そのものの問題で、何度でも蒸し返しますが、『あさが来た』なんてモデルから大幅に知略パラメータが下げられていますからね。コーエーテクモなら94から52くらいまで下がっている感じ。
 バカな女の方がかわいいって、朝ドラも刷り込んできただろうがよ! その反省がみえてヨシ!

 はるは確信を込めて見合い続行を宣告。それでも寅子は納得しない。愛は受け止めつつ反論します。そのうえで、母のいう幸せだって地獄だという。やりたいこともできず、言いたいことも言えず、必死で家のことをしても家族の前以外ではスンッとしている。だから、寅子は、母とは違う生き方をしたいと訴える。
 ここではるは鬱陶しい勘違いをします。うどんを食べたいと相手が言い出したら「蕎麦が好きな私を拒否するの、否定するの!」と勝手に空回りしてキレるやつだ。鬱陶しいなあ。正論パンチに感情で返されましても。寅子は母を見送りしかありません。
 寅子だって傷つくんですよ。親不孝だと落ち込んでいる。

 そのあと、はるに話しかけると、背を向けたまま女学校帰りに、お茶の水の竹もとという甘味処で待ち合わせると言います。この店は朝ドラ名物人物がたまる店になりそうですね。はるはそこで待ち合わせをすると一方的に告げます。振袖を買い、お見合いを続行する気満々です。理論でぶつかり合うと傷つくので、対話を拒むはる。そういうところが嫌なんだってば。

桂場は時期尚早だというが…

 かくして寅子が竹もとに行くと、あの男がうまそうに団子を前にしています。桂場です。そういえば穂高も竹もとの団子をお礼に渡していましたっけ。
 ここでちょっと不気味なまでにうれしそうに団子を口に運び、寅子の声を聞いて真顔になる演技が素晴らしい。初回のサツマイモでも似たような反応でした。甘いものを口に運ぶ至福のときを寅子に邪魔される桂場が、このドラマの名物になるようです。松山ケンイチさんの使い方として最高峰ですね。素晴らしい。
 寅子は距離の捉え方がちょっとおかしいので、まっすぐに相手の前に座る。花江ならもっと慎重にあざとく近づくことでしょうよ。野生動物じみた距離の近づけ方が桂場の警戒心を呼び覚ますらしい。どういうコンビだ。虎と獅子の対峙か!
 警戒心を浮かべ、寅子を受け止める桂場。寅子は自分のシナリオありきで話を進めます。相手の意向も確認せず、桂場が自分の背中を押した枠認定に入っている。そのシナリオ通りに進んでいて、せっかくだから彼を巻き込んで問題解決しようとしているのでしょう。厚かましい奴だな。寅子は母の説得術を聞きたいと言い出します。
 すると桂場は、女子部進学に反対する。「はて?」と疑念を呈する寅子。穂高は理論が進んでいるけれども、それに騙されるのは時期尚早だと。ただ、寅子はあんまりめげていない。
 桂場の理論の隙間をついていきます。
 理論の破綻を言っているわけではない。問題は時期だけだ。
 寅子自身は賢いと認めている。
 じゃあ気力だけならやってやる! そうなってきているようです。
 そこで桂場は、母親一人説得できないとついてくる。そこで寅子は、母は最強で賢い、優秀だということを知らないのだと食いついてきます。桂場の論理破綻をつき、ははをせっとくできないことと、男と戦うことは別問題だ、血くらい流すと言い出しました。強いな。
 桂場は同じ土俵にのぼれば勝てるという寅子に、負ける、お嬢様育ちで泣いて逃げ出すと決めつけだします。
 これをそのへんの悪役でもなく、桂場言うことは、あとあと重要になってくることでしょう。

母虎の咆哮

「お黙りなさい」
「お母様!」
 するとここへ、はるがやってきます。はるは会話を聞いていた。寅子は母を否定するどころか、女ではなく人間として扱った上で優秀だと語った。そんな寅子を、目の前の若造が貶している。許すまじ! そう乗り込んできました。
 娘は、彼は母を理解していないという。母は、若造は娘を理解していないという。
 ここではるは、積年の恨みつらみをぶつけます。男どもが女の足を踏み、頭を踏み、可能性を摘んできたくせに何を言ってるのか! 桂場は感情的になられたというと。責任がないのかと問いかけ、娘の口を塞ごうとするなと訴えます。そして団子を手にした桂場をあとにして、ズンズンと外に出ます。
 娘に有無をいわせず、呉服屋ではなく、法律専門書店に向かうはる。そして『六法全書』を買いあたえ、娘に託すのでした。はるはあの若造に怒りつつ、こう言います。自分の人生に悔いはない。だが、この新しい昭和の時代に、自分の娘にはスンッとして欲しくない。そう思ったのだと。
 あんな若造に言われたらこうなると怒るはる。桂場は自分の役割を果たしました。はるは娘が見合いをした方がいいとわかっちゃいる。それでも本気で地獄を見る覚悟はあるのかと問いかけ、目を見つめます。
「ある」
 そう返す娘を見て、微笑むはる。かくして寅子は最後の敵を倒し、地獄への切符を手に入れたとナレーションが語るのでした。

 さて、来週は「女三人寄ればかしましい?」というサブタイトル。女性差別格言をいくつ集めてくるのか、楽しみが増えましたね。

シスターフッドで敵を倒す武侠朝ドラか?

 まるでカンフーものか、武侠ものか、その影響もあった80年代少年漫画みたいな終わり方でした。どのへんが?

・のちの師父や義兄弟(桂場)とムカつく出会い方をする。相手は主役の覚悟を試すため、いきなり必殺技を放つ
・鬱陶しい親世代、敵対した相手が突如「貴様、許さんぞ!」と乱入助太刀してくる
・最強の敵(はる)が奥義書を主人公に与える
・主役が地獄へ歩み出すことを肯定的に描く
・強気男装女子が登場する
・主人公が団結して敵へ立ち向かうことが推察できる
・「おめえ強ぇな! オラわくわくすっぞ!」と、好奇心から迷惑行為である尾行をも辞さない主人公

 やはり、武侠だろう。

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