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『虎に翼』第28回 彼女は家族のために夢を捨てる

 香淑は帰国する兄と別れ、一人だけでも日本に残り、寅子たちの試験を見届けようとしていました。だから香淑はああも怒り、理不尽に立ち向かったのか。仲間のために力を尽くしたのか。そう胸打たれる仲間たち。
 しかしよねは、今しか帰国の機会はないと言います。そうするしかないと香淑は悔しそうに返すのでした。
「最後まで一緒にいられなくて、ごめんなさい」
 どうして彼女が謝らなければならないのか。寅子は義憤に顔をこわばらせ、梅子は謝らなくてもいいと言います。これで別れるのは嫌だ。寅子は唐突に海を見ようと提案し、今から行きたいと言い出しました。寅子は用意周到なのか、突発的なのか、極端なところがあります。

彼女の名はチェ・ヒャンスク

 かくして五人、いや六人は海にやって来ました。はて? そうつぶやく寅子。よねが嫌味っぽく「素敵な場所ねえ」と口にします。
 ここでトリビアでも、日本人とビーチリゾートの関係です。
 江戸時代まで、日本人は漁師か海女でもなければ、海水浴をレジャーにはしません。釣りや船での遊びはともかく、まず泳ぎません。
 目を転じてイギリスでは、ナポレオン戦争のあとあたりから、リゾートに転換点が訪れます。それまで貴族のリゾートはバースという温泉街が定番でしたが、海水浴が効果的ということになり、海浜リゾートが注目されます。明治維新を迎えますと、来日外国人たちが日本の海岸でもくつろぎだすと。それで日本人も影響を受けるわけです。『らんまん』でも田辺一家が遊泳を楽しんでいて、そこで痛ましい事故が起きる設定でした。
 寅子の頭にはそんなイメージがあったのかもしれません。が、これはどちらかというと、江戸時代までの剣豪が対決する浜辺感がありますよねえ。柳生十兵衛が歩いていそうですもんね。ススキは枯れてるし、寒いし。対馬なら朝鮮が見えるけど、ここは太平洋だろうし。
 寅子は想定外だと謝ります。梅子がお弁当をこしらえてきたかったというと、寅子は無計画を謝ります。梅子は嫌味でもなく、突然の思いつきもおもしろいと言います。寅子はここでいつも違う方向に進む己の暴走性を振り返ります。
 入学式でよねに突き飛ばされて尻餅。
 法廷劇では乱闘。
 ハイキングでは花岡崖落ち。
 ここで香淑が、どれも最後はいい方に流れて今日もきっとそうなると言います。梅子はこうしてずっと五人、いや玉を含めた六人で思い出を作ると思っていたとしみじみと語ります。
 涼子は香淑に、母国語での名前を聞きます。香淑は拾った枝で砂浜に字を書きます。

 崔香淑
 チェ・ヒャンスク

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