『おちょやん』114 お帰り竹井千代
昭和27年(1952年)、竹井千代が鶴亀新喜劇に参加することになりました。一平と灯子と決着をつけ、春子に喜劇を見せる。そう誓った千代です。
魔法の芝居を見せたる
岡福に戻り、春子に芝居を見せると誓う千代。
宗助もシズも、そしてみつえも感動する。みつえはヨヨヨと駆け寄り、千代に抱きつく。ここの動きがちょっと鈍くなっているというか、若くないんですね。そりゃ一福くんも歳やと指摘します。
宗助も、シズも、一福も、抱き合う千代と春子とみつえを見て泣いてしまう。これぞ人情の大阪や。
『お父さんはお人好し』の読み合わせの際、『お家はんと直どん』の話が出ます。すると当郎が台本を閉じてこう言い切ります。
「やめたほうがええんちゃうかな!」
お母ちゃんは俺の女房宣言をしおった。役柄と現実の境界線が溶けていく。「あの人は何を言うてはんのかな」とすっとぼけるNHK大阪のみなさん。
そしてキャストのみんなとアナウンサーはこうだ。
「お・か・あ・ちゃ・ん・い・か・ん・と・い・て!」
そうはいっても、車がきてしまう。千代は移動しようとすると、当郎がオタオタします。落ち着いていた長澤も、お母ちゃんを取られたようで嫉妬してしまう。先生まで何を言うとるのか。そう突っ込むNHK大阪の皆さん。ここで『お父さんはお人好し』の舞台化、映画化が決まります。かくして伝説の作品となるのでした。
日本映画は黒澤明とかなんとか言いますけど。こういうタイアップ路線も定番ですよね。その起源に迫ってきましたわ。
お母ちゃんを取り戻すんや! 千代はみんなに求められるお母ちゃんになったのでした。
お帰り竹井千代
そして鶴亀では、熊田が満面の笑みを浮かべで千代を迎えます。熊田さんも歳とったなあ。貼られたポスターには、「お帰り竹井千代」と書いてある。
そして稽古場Aに入ってきて、座り、頭を下げます。
「よろしうお頼み申します」
この千代も、迎える座員の動きも、流れるようで美しい。立ち上がって稽古があと五日しかあらへんと告げる一平は、えらそうな昭和のおっちゃんでもある。それを見守る熊田。そして、その上には社長の肖像画。昭和によくあった社長の肖像画、その意味を再確認します。
一度目よりも、二度目よりも、脂が乗ってきた『お家はんと直どん』の稽古。同じ演目を何度も見る演劇ファンの気持ちがわかりますね。
そして稽古が終わろうとするとき、千代は一平に最後のセリフを直したいと言います。
「もし私らが一緒にいたらどないな人生があったんやろか」
あまりに生々しいセリフです。一平は一度はこういう。
「きっと素晴らしい……」
違うな。
ここで一平は、じっと見守る皆に「もうええで」と言います。といっても、皆じっと千代と一平を見ている。
「もし私らが一緒にいたらどないな人生があったんやろ」
「そないなこと、考えてもしゃあないやろ」
これには千代も微笑む。今までの人生、ずっとそうやろな。うん、ええかんじやな。一平も納得します。
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『週刊おちょやん武者震レビュー』
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…
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