『おちょやん』15 悔いなき道を選ぶ女たち

 組見でおおわらわの岡安。そんな中、延四郎とシズは無事に再会しています。延四郎は倒れておりましたが、なんとかなりました。二人は屋台でうどんをすすっています。

悔いなき人生を

 屋台でうどん。二十年前ならともかく、今ならもっとお高いものでも食べられることでしょう。それに、そういう雰囲気ならばもっと人目のつかない御座敷にあがりますよね。そういう需要に応じて、日本には店もありました。そうしないあたりに、この二人の関係が見て取れます。後ろ指さされるようなことはないのでしょう。

 シズは、あのときついて行かなくてよかったと言う。行かなかったことに悔いはない。芝居小屋の女将でよかったとしみじみと言い切ります。
 延四郎は、あのとき着ていても別れを告げるつもりだったと言う。シズは舞台以外は芝居が下手くそだと言うのでした。
 この距離感がよいのです。シズはキッパリ言い切る。自分で選んだ道に悔いはない、それでよかった。せやさかい、おおきに。
 ここで二人は、“もしも”手に手を取り合っていたらどうなったか、その答えを出したように思えるのです。だからこそ、延四郎は千代に今のシズのことを聞いていたのでしょう。
 相手をほんとうに、心底、思っているからこそ。しあわせになって欲しい。悔いなく生きて欲しい。自分のものに無理矢理する、所有欲を満たすのではなく、そんな純粋な愛がそこにはあります。
 ええもん見せてもろたわ。朝からええんか? 受信料で、ええんか? 最高の受信料の使い方ちゃいます?
 役者さんにとってもよいことづくし。上方歌舞伎の魅力を見せた片岡松十郎丈に、一皮剥けた篠原涼子さん。最近のNHKは、往年の女優の気配っちゅうか。そういうもんをまとった役者の育成に目覚めている気がします。きっとこれから篠原さんはなんでもできるだろうな。そう思える名演でした。

 組見で千代は、おっちゃん……もとい常連さん、太い客にお酌をしております。このわちゃわちゃした場面だけでも、額に入れて飾りたいようなもんがありますわな。袴はなし、着物の裾をちょいとまくって帯に挟んどるおっちゃんおりますやろ。今は和服ちゅうと、もっと真面目に着るから、こういうだらしない褌チラッとしそうなおっちゃんはまずいない。このドラマを見ていると、私たちの日常から何が消えたかが見えてきます。
 和服はまだ残ってはいる。けれども、だらりと安っぽく庶民的に着る人はいなくなってしまったんですね。
 何気ない場面で、千代の気の強さもチラチラと見えます。チエ、チエ! そう名前を間違われて、「誰がチエや」と小声で毒づいています。

身ひとつで、自分の人生を生きる

 そのころ、高城百合子は鶴亀を去ることに。活動写真はやはり断るそうです。荷物一つ、身一つでもやっていける。そういう颯爽とした姿です。そんな百合子は、ハナに別れを告げます。
 何年か前、ヒロインの母があまりにバカにされるNHK大阪朝ドラにキレ散らかしておりましたけど。老女、当時の言い方ならば“刀自”への敬意を取り戻した模様。警察に頼らず千代を見つけたあたりから、ハナ刀自がどれほどの傑物か見えてきました。百合子がこうして挨拶にくるのですから、ハナには敬愛が払われているのでしょう。そうそう、大正は男尊女卑も強かったとはいえ、そこは儒教道徳の時代です。年上ならば女性相手でも、こうして敬愛を示したものですって。で、ハナの宮田圭子さんがよろしいでしょ? 井川遥さん、篠原涼子さん、杉咲花さん。そういう後進の女優も、こういう役をできるように目指していく。そういう道筋ができるわけです。
 老女をバカにしていたら、女優さんだって暗い気持ちになりますよ。ああ、私も将来、ああして笑い物にされるのか……そういうことしとったら、芸の道は尽きるから。誰にも敬愛がある世界に戻す。そういう力を、このドラマには感じるんよ!

ここから先は

3,681字
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…

よろしければご支援よろしくお願いします。ライターとして、あなたの力が必要です!