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『今ここにある危機とぼくの好感度について』第2回

 中身が空っぽな大学広報担当者・神崎は、元カノ・みのりちゃんが告発した論文不正にどう対処する? てなわけで、第二回。

日本は貧しくなった……

 このドラマって、もう、ヘアメイクや衣装ひとつとっても挑発的っちゅうか、社会批判目線があって。
 役者さんの顔色見てくださいよ。ツヤツヤしてないっていうか、髪の毛もね。もっさりしてる。もっと他のドラマはいきいきしてません? なんか不健康っていうか、地に足がついているリアリティ重視なんですね。
 衣装も量販店で買った感があるっていうか。元アナウンサーの神崎の腕時計なんかは、高そうなんですけれども。

 そのことに気づいたら、いろいろ虚しさがどっと押し寄せてきました。
 帝都大に進んでいる学生なんか、もう同世代数パーセントのボンボン、お嬢様でしょうに。でも彼らの服が綺麗に見えますか? 昔の大学生の方がよほどギラギラしてません? これは大学職員、教員もそうでしょう。
 ポスドクで貧しいと明言されているみのりは、ラストで深夜高速バスを待っている。この高速バス移動にショックがあった。飛行場じゃない。新幹線のホームですらない。高速バス、しかも安い夜行便! 主人公に大きな影響を与える、帝都大卒の女性が、高速バス移動……そのことにものすごく衝撃を受けてしまいました。

 このドラマは、上から下まで、みんな貧しい。
 大学上層部は研究費で簡単に“買収”されてしまう。そしてその買収に裏切られた元ポスドクは、高速バス夜行便で去ってゆく。
 クアトロオムライスを食べる神崎を見ていると、わかりにくくなるのですが。このドラマは、貧乏っちいリアリティがあるんですよ。

ファイナルおっさんファンタジーはもういらん

 NHKプラスのおかげで、日曜に見たわけですが。後悔もよぎる。というのも、大河があるわけでして。
 あの大河は番宣や報道を含めて、ファイナルおっさんファンタジーなんだよな。あの大河番宣では“一生青春”という寒い言葉がやたらと出てくる。その度にゾッとする。というのも、上司接待くさい。自分が加齢しないで部下女性にちょっかい出すおっさん上司ぽいと言いますか。

 いや、むしろさ。こっち見ましょうよ! こっちが現実っすよ!
 そう神崎顔で誘導したくなる、大学の理事会。あのおっさんくささ。加齢が悪いんじゃなくて、男なのが悪いんじゃなくて、鈍感さや傲慢さが悪い。みのりがいみじくも指摘するように、権力あるから自分たちは間違えないっていう、そういう驕り昂ぶりがダメなんだなぁ。
 そう権力者を持ったおっさんの醜悪さが凝縮されている。Zoom会議を一方的に切る総長はもうしょうもないけど比較的無害で(幕末長州のそうせい侯って、こんな人だったんじゃないですかね)、むしろ彼に忖度する理事どもがよぉ……。見ているだけで気分がドス黒く滲んできますわな。

 出演者のみなさんも、この理事会の忖度やダメさ加減は、日本社会のありとあらゆるところにあてはまると語っておりました。そうだと思います。こういうおっさんが密室でわちゃわちゃ、さしたるデータもなしに決めることで、どんだけ世の中悪くなって停滞しているか。そのことを皮肉っていて秀逸です。

どこが痛快なんだ! いや一周回って痛快か?

 そして今回、オチが全然痛快じゃねえ。
 みのりは結局、負けたと語ってしまうし。神崎が活躍したとも言えないし。ナァナァでおさまっただけであるし、なまじ不正が医療分野で行われているだけに気持ちが暗くなることこの上ない。コロナでこんなことがあったらどうする? やばくね? あれ……もしかして起こってね? そうなりますわな。舞台が大学であることも、よりにもよってこの分野で不正が通っちゃうことも、相当意識していると思いますよ。

 全然スッキリしないハッピーエンドだけれども、むしろそれがよいのかとも思った。倍返しだのなんだの言いますけど、そんなうまく行くわけないし、それでスカッとして現実社会で動かなければむしろ社会は悪くなるだけでしょうに。
 この最悪とまではいかないけど、結局何も解決してない、ただ神崎くんがなんとなかった。そんなしょうもねえ結末が一周回って痛快に思えてきたのがまた。

でも希望はある

 とはいえ、希望はあるんですよ。
 正論好きでうざいとされている室田教授が、新聞部潰しに敢然と抗議すると。すると、別の教授もそれに賛同して、あの新聞部は存続しているとわかる。澤田延髄斬りやらなにやらでわかりにくくなっているけれども、あの場面は希望ではるんですね。抵抗勢力はちゃんとあるし、流されるばかりでもないと。

 何よりも、最大の希望って、NHKがこういうドラマを作っていることかもしれない。
 たった5回。土曜ドラマ枠。それでもここまでやるには、大変だったんじゃないかな。それに、脚本演出はじめ、スタッフに一軍投入しているのが丸わかりと言いますか。相当気合入れてますよね。
 NHKが本気を出せばすごいのは当然です。今回もスナックの昭和らしい板ガラスなんか見て、こういうことできるんだと思いましたもん。
 でも、だからこそか、手抜きするときはとことんやりますよね。NHKドラマ班のやる気観察が最近楽しくなってきました。こういう作品には全力注いでいきましょう。来週も楽しみです!


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