【読書】北村紗衣『お嬢さんと嘘と男たちのデスロード』

 さえぼう先生こと北村氏の著作です。さまざまな連載やブログ記事をまとめたもので、そのあたりの経緯は冒頭に記されています。

自分の“ルーツ”を明かす勇気

 この本は作者が自分のルーツを明かしていて、勇気があると思えました。それは別に北海道民であるとか、そういう話ではありません。
 人間は十代のころに読んだ本、見た映画、聞いた音楽の影響を受けると言います。そんな心がやわらかい時代に見た映画『ロミオ+ジュリエット』が研究のルーツだと本書には書かれています。
 勇気があると思いました。私も十代に読んだ本が人生にどれだけ影響を与えているか近頃考えこんでしまうのですが、具体的な書名すら言う勇気が持てません。書名にはまったくもって罪ないどころか、むしろまっとうなのですが、影響を受けて行った自分の言動がわけがわからなすぎて……まあこの話はやめましょう.誰もどうせ知りたくもないだろうし。

 同じ映画を見て考えることなんて十人十色だし、そこに個性の違いが出ると思えました。

有毒ファンダムの弊害

 本書で一番突き刺さったもの。それは『スター・ウォーズ』ファンとして、ファンダムに目配せし過ぎた『スカイウォーカーの夜明け』への失望論です。
 ちなみに私は『スター・ウォーズ』は途中までしか見ておりません。中身もさして覚えていない。こういうSFなら『GALACTICA』のような艦隊ものが好きです。どうでもいい話ですが。

 そんな作品そのものではなく、有毒ファンダムの弊害をスッキリと……いや、もやもやと切っていてうなずくことが多かったのです。
 最近のシリーズものでは、誰もがスッキリするエンディングを迎えることが少ない。逆に『ゲーム・オブ・スローンズ』はファンダムの期待を蹴っ飛ばしたからこそ、ああも賛否両論だったのかと私は思います。あのシリーズはそもそもとして原作を完結させないGRRMが元凶としても。ネタバレしつつ書きますが、ジョンとデナーリス、アリアとジェンドリー。ジェイミーとブライエニー。こういうカップリングファンを全滅させるような終わり方でしたからね。伏線回収が中途半端とか、カットされた要素とか、色々不満はあるのはわかる。何よりもデナーリスを応援していたファンからすればガッカリでしょうよ。でも、テーマを追うためにもファンに「ドラカーリス!」としつつ、終わらせるしかなかったと思うんですよ。

 そういうファンに平手打ちをしつつも、ストーリーを追わないことに対し、さえぼう先生は失望しているんじゃないかと私は思いましたね。

 そして私も、過剰にファンダムに目配せした作品は嫌いです。
 日本のテレビ番組は弊害が酷い。SNS感想を抽出するなんて時代遅れになりつつあるんですけれども。そこを認識していないのか、SNSでの感想を過剰に取り上げるネットニュースが活発でして。
 ツイッターでハッシュタグつけて盛んにつぶやく層って、2ちゃんねる実況板やmixiにいた実際の年齢は中高年以上なのに、精神だけは若いと自認している“ノイジーマイノリティ”がどうしたって多いものでして。必ずしも反応をきちんとフィードバックできていません。
 でもそこを認識できているのか、いないのか。そういう層へのPV稼ぎ狙いか、あるいは書いている側が無自覚なのか。そこを過剰に取り上げる向きはある。作り手も「とりあえずネットで話題になったらいいや」と手抜きしていると思えることもある。

 こういう有害ファンダムは、それこそカルト臭がただよっています。

 ロス連呼。『あまちゃん』から10年経過しますが、いつまでやってますか?
 ナレなんとか。
 神回だの神脚本だの。カルト臭い。
 伏線回収。お告げに躍る儀式のようですね。

 そんな批評でもないカルトじみたファンダム観察日記がよしとされる。そんな日本のドラマ批評ってなんだろう。そんなことをまで考えました。

 たとえば朝ドラなんですけど。

大団円の「カムカムエヴリバディ」が意外に罪深い訳 朝ドラに張りめぐらせた“伏線回収"は薬か毒か | テレビ - 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/580534 

「ちむどんどん」なぜ暢子の恋を応援できないのか 6月27日から3週間かけたラブストーリーが不発 | テレビ - 東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/604532 

 今期『ちむどんどん』を叩いているライターの記事で前作『カムカムエヴリバディ』とタイトルを入れて検索すると、毎度毎度「伏線回収」を褒めるお約束の記事が引っ掛かります。ちなみにこういう記事ってコメント欄を読むと叩かれていることが多い。書いている側と発信している側が思うほど受け入れられていないと思います。NHKには「みなさまの声」が届きます。その意見と照らし合わせれば、ノイジーなだけなのかどうか判断できるわけです。

 誰かの指示というよりも、朝ドラの一部ファンダムに過剰忖度したか、染められた結果、同じ論旨で似たようなことを書いて、それで「これがファンダムの総意だ!」とやらかすわけです。

 さえぼう先生が指摘している通り、こういうノイジーマイノリティでアップデートできないファンダムって、自分らの感覚が常に正しくて、マイノリティなんrて踏み潰すと言わんばかりの対応をします。

 『スター・ウォーズ』ではアジア系の女優が執拗に叩かれました。有色人種を排除したい気持ちがそこにあると分析されていました。朝ドラの場合、障がい者、北海道出身者、沖縄出身者といったヒロインへのバッシングがとても強い。本書のおかげで謎が解けた気がします(といっても、ファンダムを構成する人に言っても馬耳東風でしょうけど)。
 
 後半は本書から脱線してしまいましたが、そんなふうに批評について考えさせられる力作ということです。


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