『おちょやん』104 戦争で失われてしまった家族の団欒を
千代は当郎を見送ります。何度来ても変わらないと告げる千代に、当郎は自分もやることがあるからもう来ないと言います。
「このラジオドラマ、絶対成功さしたるわ」
あとは千代ちゃんの決めること、今日は楽しかったと言い残し去ってゆくのでした。
やりたくないことをやらせてもあかん
そして当郎は屋台へ。するとそこには長澤がおります。おでんちゃうねん、関東煮(かんとだき)を食べてますわ。当郎は竹井千代に会いに来たのかと言い、一緒に行こうかという。でも二度と来ないといった手前、舌の根も乾かんうちにはちょっと行きづらい。一緒に行こうと誘われて、長澤は断ります。
主演二人といい、関西以外出身者ががんばってはる本作。とはいえ、関西出身者の大阪ことばは滑らかでええと思えるこの場面、食べながら、口をほとんど動かさず仏頂面なのに、ちゃんと関西弁で聞き取りやすい。そんな生瀬勝久さんが流石やわ。
頑固やなぁ、慰問団におったときと変わらんわ! そう当郎が言います。そっか、慰問しとったんやね。長澤は竹井千代はええもんを持っているけれども、本人にやる気がないならそれまでと言います。
誰かに無理強いされて芝居やってもええものができるはずがない。戦争中の経験を踏まえてそう語る長澤。当郎も隣に座ってこう言います。
「せやなぁ」
あないな思いは、もう二度としたない。
だからこそ、彼女のことを諦めたくない。戦後の民主主義とは、押し付けられたちゅうか、上から降ってきたような印象もあるかもしれない。でも、戦時中に自分らの意思をまげて生きねばならなかったからこそ、あないなことはもうごめんだと思って、無理強いしないような空気が下からも生まれたんちゃうか。そう思える秀逸な会話です。
もう芝居やらへんの?
千代はラジオから流れるショパンのノクターン第2番を聞いています。開けた箪笥の引き出しには、写真立てと『人形の家』の台本。
芝居で心躍ったこと。そんな思い出が千代にはあります。あの日飛び出して、ずっと一人だったと嘆いた千代。でも一人じゃなかった。舞台の上で演じて、観客席から笑顔をもらって。一人ではなかった。そんな思い出がそこにはある。
そんな千代に春子が当郎のことを作文で書いて、字があっているか聞いてきます。でも作文が嫌いな春子。作文を書いてみんなの前で読むことは苦手なのです。千代はそんな春子に友達のことを聞く。友達は春子を励ますと言うのです。大きい声で読んだら、恥ずかしいなんて消えてしまうと。
春子はここで無邪気に聞いてくる。
「千代おばちゃんは、もう芝居やらへんの?」
これを聞いている栗子の顔よ。もうやれへんと千代が言うと、春子は見たかったと返すのでした。
ただおるだけでありがたい
春子が寝静まったあと。千代と栗子が酒を飲んでおります。うまそやなぁ。千代は思えばテルヲの酒乱を見て育ち、ビールを飲む劇団の男どもに酒を配り、一平の浮気に怒りコップ酒をあおっていた。そういう酒とちがって、うまそうに飲む女同士の酒! 屋台で男同士が飲む場面と同日にこういうもんを入れる。
栗子はしみじみと、千代が来てから春子は明るくなったと感謝します。でも千代はお芝居をやめたうちにできることなんかないと謙遜する。本気やろか。
栗子はしみじみと語る。さくらが、娘夫婦が亡くなったとき、後追いを考えた。でも春子がいたから思いとどまった。
「ただおってくれるだけでええ。それで十分や。芝居してへんかってもあんたはあんたや。おおきにな」
千代はそんな栗子に礼を言い、からだに触るさかいはよう休むようにと語りかけます。栗子は寝室へ向かい、千代は襖を閉めるのでした。
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『週刊おちょやん武者震レビュー』
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…
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