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『ゴールデンカムイ』27巻レビュー

 ヴァシリが表紙です。ネタバレ込みですので、以下ご注意ください。

ビール工場での決戦

 ビール工場では第七師団と牛山が戦っている。鯉登が抜刀状態で元気よく走っていますが、彼は本気で戦うとなると抜刀します。得物は刀。つまり、拳銃ではない。アシリパ追跡戦で杉元に刺された時は、実はかなり気もそぞろでした。
 このあと土方がジャックに向けて戦う。近距離では刀。遠距離では銃。彼らしい戦い方です。

 土方は個人戦闘力はそこまで高くなかったとは言います。沖田や永倉の方が若かったし、瞬発力では勝っていたのでしょう。ただ、幼少時から指揮官としての片鱗があった。薬屋だけに薬草を刈り取る作業をするわけですが、土方は幼少期からこのときテキパキと指揮を執っていたと伝わります。部隊長として抜群のスキルがある。ゆえに、個人戦闘力をあんまり褒められてもピンとこないのです。
 夏太郎を心腹させちゃうあたりに、そういう部隊長としての抜群のスキルを感じます。
 そんな土方の指揮のもと、花火を使った情報伝達をされ、杉元、アシリパ、白石が移動します。そして第七師団と出くわす! 杉元と鯉登は本気の接近戦です。繰り返しますが、樺太でのこの二人の戦闘は、鯉登の士気があまりに低かった。
 ここで牛山がビール樽を押したため、ビールを浴びてしまう杉元と鯉登。アルコールは粘膜から吸収すると危険だぞ。ここで「ロンドンビール洪水事故」の解説が入ります。この漫画は何気に世界史範囲の近現代史までカバーしてます。

菊田は何かを知っている

 そんな中、菊田がアシリパを確保。アシリパは未成年飲酒から逃れました。そういう問題じゃないか。アシリパは毒矢で菊田を脅す。弓矢は便利ですね。アイヌの毒矢は蠣崎氏も特殊武器として自慢したとかなんとか。
 菊田はここでアシリパに核心に迫ることを言い出す。遺品回収で何かあったそうです。
 尾形はそんな二人を見て銃を構えていますが、そんな尾形を別の誰かが狙撃する。ヴァシリです。そして尾形が身を引いた理由は、勇作の悪霊のため。そう、尾形は「悪霊」と言っています。
 でも、殺した父と母は悪霊になっていない。尾形はどうして、勇作の殺害だけを気に病むのでしょう? こういう幽霊って結局は罪悪感の反映ですよね。

 ここでビールの物価や歴史もふれ、酔態をさらす連中を見つつ、話は進んでいきます。体質的にものすごく弱かったら戦闘不能でしょうから、まあ、皆そこそこ飲めるとみた。新潟(月島)と鹿児島(鯉登)は酒豪が多い。新潟は酒好きが多いので、鶴見が飲まない点は引っ掛かっています。酒乱で誰かが失敗したか? それとも?

 さて、菊田とアシリパは? 菊田は遺品からアイヌの金貨が見つかったことを言います。そしてウイルクの汚名返上について言い出す。でもアシリパは、アチャに託された未来を選ぶといっている。菊田は金塊を放棄しなければ死ぬと言い切る。何か罠があるということでは?
 ここで宇佐美と門倉が乱入し、アシリパを逃します。

狙撃手対決

 尾形はヴァシリの狙撃を避け、囮を使いつつ、壊れた撃針を補充すべく動き回っています。楽しそう。そしてこいつは罪悪感がない。今更だけど全くない。そしてあのときのロシア兵が追ってきたのかと嬉しそうに考えています。
 俺なら追う! そう思うわけだ。

 ジャックはビールの梱包材である藁苞に火をつけてます。ああ、プラスチックをやめて藁苞に戻すことがSDGsだよね。そんなことを思ったりして。
 門倉は宇佐美に追いつかれ、刺青人皮を見つけられ、尻を叩かれるという悲惨な状況に。するとそこに尾形がやってきます。

生まれではなく、何をするか

 ジャックはアシリパと出くわす。そしてジャックはアイヌの処女懐胎神話を言い出す。東の風に尻を当てると子ができるというもの。ウイルクはアシリパに、母のリラッテとウオラムコテ(互いに心をつける)をしたから生まれたと言います。アイヌの言葉は優しいと思えますね。ストゥをふるい、ジャックを追い払うアシリパ。
 消防車が来る中、ジャックはあの女の嘘と同じだと言い出します。年老いた娼婦が、王族と愛し合って生まれた子だと言い張ったとか!
 それが耐えきれなかったのか、処女の子だと言い張ったと。
 いくつもの切り裂きジャック伝説をミックスした巧みな構成です。

イギリスの王族はふしだら三昧と言えます。ハノーヴァー朝の王族なんて酷かった。私生児がいても不思議はないですよね。 ヴィクトリア女王の息子たちもなかなか奔放でして。むしろヴィクトリアとアルバートが例外。切り裂きジャックの犯人説がある王子もいる。

 王族犯人説と、王族のスキャンダルを組み合わせた説といえます。娼婦への目線もそう。

 しかし杉元にはそんな理屈は通じない。誰から生まれたからより、何のために生きるかだろうがッ! そう血統主義を否定しつつ、ジャックを襲撃。ここからがなかなかえげつない。殴り、煉瓦塀で顔をすり下ろして、銃剣刺殺して窓から突き落とす。そんなジャックをみて、牛山は娼婦は観音様だと持論展開しつつ、首の骨を折ってとどめを刺します。

農家の息子と、浅草芸者の息子

 宇佐美は尾形を攻撃中。接近戦はそこまで得意でないのか殴られ、銃から弾を抜かれてしまう尾形。宇佐美は尾形に「一番安いコマ」と言われたことに怒っています。そして「商売女の子供の分際」という。ジャックのセリフとかぶることを言ってはおります。
 しかし尾形は弾を装填し、反撃の銃弾を宇佐美の腹部に撃ち込みます。的の面積として広いから仕方ないけど、頭あたりに当たらないところが哀れですね。こりゃ苦しいし、あっさり死ねない。しかし宇佐美は兵士ですから、なまじ動けることを生かして鶴見のもとを目指します。

 尾形はそんな宇佐美に、安いコマかどうか不安なら葬儀で鶴見がどんな顔をするか見ればいいと言いつつ、銃を構えます。そういう理屈で母に毒を盛りましたもんね。そして宇佐美の胸部を撃ち、射殺完了。狙撃手として復活を遂げました。義眼がポンっと出てしまう尾形。義眼は木製の球体もありましたが、この頃はガラス製で円盤型になっています。毎晩寝るときは外して、定期的に洗おうね。

 ちょうど鶴見の胸に倒れ込みつつ、門倉の持っていた写しを渡します。鶴見は指を噛みちぎり、愛の言葉を囁いているかのよう。
 宇佐美はうっとりとしていますが、鶴見って長岡藩士族の子ですからね。新発田出身の宇佐美をどこまで真摯に思っていたのかわからない。新発田なのに裏切らなくて立派だ、あの新発田のやつをここまで育てた私はすごいとでも思っているのか。

 上エ地の過去がここで語られます。戊辰戦争勝ち組そこそこエリートの子息ぽい。彼は死んで暗号を解けなくすると言いますが、24枚集めなくても解けると知っている土方も鶴見も反応しません。
 そうだと思いましたよね。アニメ化の時点でかなり刺青の枚数減ってますし。
 そしてそんな最中、門倉に最後の暗号があると明かされました。門倉は大事な存在だった。

房太郎の王国

 門倉と別れた杉元とアシリパは、煙の中を進んでいきます。ここで房太郎が二人を救出すべく、息を吸い込んでいます。ここで尾形と菊田はすれ違うものの、お互い無言で当然のように振る舞います。
 月島は尾形を中央に内通しているとみていた。それは半分正解で、半分不正解なのか。月島の懸念は的中しています。
 房太郎は杉元とアシリパを見つけたものの、杉元からアシリパを奪ってしまいます。杉元も呼吸が苦しくなければ勝てただろうに。
 房太郎は金塊で自分の王国を作ると言い出す。蝦夷共和国なんて捨てちまえと。孤児の房太郎は自分の王国を作りたいのだとか。大家族を築き、自分を王様にしたい。切ないようで、発想がジム・ジョーンズの人民寺院や、チャールズ・マンソンのマンソン・ファミリーじみている。危険だし、明治の日本人とはちょっとちがう、江渡貝や姉畑らしいものを感じる。野田先生は『羊たちの沈黙』あたりからのアメリカ殺人鬼本でもみっちり読んでいたのではないかと思います。推理メソッド、切り裂きジャック、その他もろもろから、彼はミステリ愛好者、国内も海外も読んできたのではないかと思う次第です。

鯉登の言葉が

 そこへ鯉登が大上段に構えてやってくる。薩摩隼人が高身長のうえに、示顕流はこういう大上段でやってくるから、その時点で新選組すら恐怖するという構図があった。鯉登は基本を守っていてよい。そんな薩摩隼人相手に長髪で視界を遮る房太郎。しかし月島が房太郎を撃ち、危機脱出。房太郎は撃たれながらもアシリパを抱えてゆきます。
 ここで鯉登が追いつき、房太郎の背中を斬りつける。房太郎はビール洪水に潜ります。あれだけ斬られてアルコールに浸かったのでは、もう危険です。そのせいで鯉登は油断したのか、背中を向けて月島にアシリパ確保を伝えます。月島がそこにたどりつくと、鯉登は刀だけ残して消えていました。
 月島はアシリパに鯉登はどこかと聞く。引きずり込まれたとアシリパはいう。月島はアシリパと鯉登、どちらを救うべきか迷い、結局鯉登を救出に戻ります。
 救われながらも、鯉登はアシリパそっちのけで来たことを責める。
「馬鹿すったれ!」
 優先順位をまちがえたと怒りつつも、薩摩ことばになっている鯉登。月島への好感度があがってます。
 
 このあと、アシリパは二階堂がお箸ギミックを役立て確保。二階堂は杉元が生きていたことに怒っていますが、鶴見は「あそう」で終わる。こいつ……。そこへ鯉登と月島が合流.してきます。鯉登は流暢な標準語で状況を説明してしまう。本人と月島は異変に気づきました。
 月島には薩摩ことば。鶴見には標準語。心が動く対象者が変わってしまいました。
 アシリパを確保し、撤収する鶴見たち。

 そのころ杉元は、房太郎にアシリパを返せと迫っています。門倉は工場火災であわや焼死かと思いきゃ、謎の幸運で助かって笑いをとっていくのでした。

 以下、歴史考証と考察でも。

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『ゴールデンカムイ』アニメ、本誌、単行本感想をまとめました。無料分が長いので投げ銭感覚でどうぞ。武将ジャパンに掲載していました。歴史ネタでより楽しめることをめざします。

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