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【読書】渡邊大門『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』

 この本は分類として日本史に入るのだろうけれども、中国史や朝鮮史、東洋史に興味がある方にもぜひとも読んでいただきたい一冊です。華流・韓流時代劇ファンならば必読と言えます。

華流や韓流時代劇では、どうして倭寇が極悪非道なの?

 そう思ってしまったら、本書を読めば解決します。こんなことをされておいて、倭寇にシンパシーのある描写なぞまずできません。被害にあった側が、加害者側になぜ同情しなければいけないのでしょう?
 本書は史料をあたり、丁寧に解きほぐしてゆきます。中国や韓国側が誇張したことについても、冷静に検証しているのです。とても丁寧かつ冷静なので、重箱の隅を突くようなことはできません。

 こういう華流や韓流描写については、Amazonレビューなど、各所で悲惨なことが起きています。倭寇が悪役として出てくると「反日だ!」と見ていないとしか思えない酷い星一つ評価をつける。こんなことが罷り通るのであれば、往年の香港時代劇なんてだいたい全部駄目ということになりますが。最近は華流や韓流も、日本描写の時代考証が綿密になってきていることもお忘れなく。

 Amazonプライムドラマ『MAGI』の参考にもおすすめできます。あのドラマには、南蛮船に乗せられて性的搾取をされる日本人女性奴隷がでてきます。本書は日本のみならず、当時のカトリック教国の奴隷に関する欺瞞も掘り下げています。むしろ理論武装して、奴隷を正当化してきた。それが当時のカトリックです。

歴史修正に有効な反撃、2020年代以降の歴史はこうでなくては

 本書のレビューにせよ、口汚く罵る、中身ろくに読んでいないものが見られます。しかし、歴史を学ぶ意義とは、そもそもが自国の英雄だのなんだの、そんなものに自分を重ねて「俺を褒めろ!」と威張るためのものではないはず。過剰に自国の歴史や人物と自己を重ねてしまった結果、不都合な指摘を悪口か何かだと思い込む心理が醸成されている層がいるのです。
 そうなると、「そんなこというけどお前らだって!」とニヤニヤしながら他国の悪事を強調してきたりするもの。そして売れることが正義となりがちな昨今、そういう心理につけこんだ歴史関連の本がよく出ています。どのあたりを目的としているかは行間から読み取れる。要約するとこうよ。

「中国だの韓国はこういうけどあいつらだって!」
「フェミはガタガタいうけど、そんなことねえんだよ!」

 こういう劣情に漬け込み、勉強を重ねた学者だって言い任せる。そんな優等感を味合わせる本やテレビ番組が受ける時代になりました。

 そういう時代に、その逆をゆく本書はむしろ数歩先を歩んでいると思えます。BLM運動で歴史を見る目も変わった。歴史を築き上げてゆくうえで、どれほどおぞましい制度や人権侵害があったか、そこを直視せねば話になりません。

 本書はそんな2020年代の歴史を学ぶ意義をしっかりと伝えてくる。これが新書で手に入るなんて素晴らしいことだと思います。
 案の定、レビューではろくに内容も理解せずに星一つをつけるものが多い。けれども文体からそうした人は、何かをこじらせた歴史修正主義者だとわかります。歴史修正主義者を苛立たせて星一つを獲得するなんてむしろ殊勲でしょう。本書は歴史修正主義者を苛立たせているのだから、成功です。 

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