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『虎に翼』第31回 言論弾圧、金属供出、日の丸弁当

 志なかばで諦めた友。選択肢すらなかったご婦人方。その思いを背負って猪爪寅子は邁進する――そんな新たな始まりです。時は昭和14年(1939年)春のことでした。

優三の境遇

 このドラマは弱い立場の男性が描かれていないともされますが、実はずっといます。優三です。優三は寛大な猪爪家にいるからこそ相対的に良いだけで、父母がいないうえに挫折した大変辛い境遇にいます。法律をこれだけ学びながら、恩人の工場に住み込みで働くしかないことは挫折そのものといえる。しかも粘りに粘ったその決断の背後には、寅子がいます。寅子と優三は月明星稀というもので、煌々と輝く寅子という月の前では、優三という星は霞んでしまうのです。
 ここがジェンダーの厄介なところではある。男が男に負けるのは仕方ないにせよ、女に負けると決定的に心が折れてしまう。そういう構図もあります。近年の朝ドラでは『スカーレット』もその例です。モデルは夫による不倫が決定打となって離婚としたのが、ドラマでは妻の才能が夫を上回ったことが原因でした。
 でもそんなことまで女のせいにされても知らんのですよ。

 さらに日中戦争が始まったこの年代、ブルーカラーになるということは戦線も近づくということも意味します。水木しげるもそうなのですが、そもそもが集団生活に向いていない人間が軍隊に入ることの惨さを想像してください。試験に腹を下す男が前線に立つなんて、もう辛いに決まっています。
 優三はこの時代の哀れを凝縮したような男です。『らんまん』の寿恵子がラストまでいたように、彼の延命を望む声があるとネット記事になっていました。あれは万太郎のモデルが際立った長命なので、妻がかなり早く亡くなったように思えますが、そもそも彼女は当時としてはそこまで短命でもありません。優三のモデルとは状況が異なります。優三は試験再挑戦を諦めたあたりから死の影がすでにちらつき出しています。

「先生」と呼ばれて出勤する

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