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『おちょやん』115 今日も道頓堀がええ天気でありますように

 昭和27年(1952年)、『お家はんと直どん』に竹井千代が戻ってきます。黒衣も顔をお披露目です。桂吉弥さん、お疲れ様でした。やらかい北摂らしい関西弁で、聞いているだけでホッとしました。
 上方落語ええなぁ。聴いていてそう思えますよね。上方芸能はよいものだと、隅から隅まで思えます。
 見納めになるオープニングも優しい。道頓堀最高や! そう思えます。

千代の凱旋舞台

 かくして幕があがり、千代と一平二人の場面へ。このドラマのすごいところは、華麗演技を嫌がっていないと思えるところでして。千代が扮する大阪のおばあちゃんも、一平のおじいちゃんも、すごく味があります。
 それを舞台の袖で見ている、大山社長の肖像画を掲げる熊田。なんちゅう忠誠心や。みなも固唾を飲んで見守っています。そんな中でも、寛治が何か違う。一人落ち着いているというか、オーラがある。ああ、何があってもこいつがいたらなんとかなるな。そういうものがある。
 彼こそまさに新喜劇次のスター。彼がスターになる過程は描かれない。それなのに、オーラでそう示す。半端ないわ。しかも演じる前田旺志郎さんは松竹の後輩ですからね。二重の意味で、安泰だと思えます。

 お家はんと直どんも、脂が乗り切った演技で。枯れかけているのに燃える。焼けぼっくいに火がつくというのは、こういうことかと。でも、演じている杉咲花さんと成田凌さんの年齢を考えたら、こら半端ないですよ。
 若い男女の恋愛だけでなくて、おばちゃんおじちゃんの恋もええんちゃうか。そう思えてくる。
 でも、うちらが結ばれていたらどうなったかという問いで、千代と一平に引き戻されます。そういうイフを考えてもしゃあない。今ある人生、それが全てだと。
 千代、もといお家はんはしみじみと語る。別れたことで、大切な人に会うことができたと。これはもう、千代と重ねてしまいますわな。
 これはすごく大事なこと。
 出会えて、苦い思いもあったけど、それでええ。でもここで大事なのは、千代側が言うのはええけど、一平側が開き直るのはあかん!
 二人はそう言い合う。そして彼女は笑う。
「生きるって言うのは、ほんまにしんどうて、おもろいなぁ!」
 お家はんはそう笑顔で言い切ります。そしてここで、客席には千代の父母と弟の姿が。歓声を送っています。
 客席も泣き、舞台の上や袖の役者まで泣く。ここで泣いとるやないけとツッコミ合う。これが上方の真骨頂だと思った。ええとしこいた男どもまで泣いてしまい、強がり合い、それでも泣いてまう。こういう空気は他では出せないと思った!
 そして舞台は終わり、拍手喝采。そこにしかない空気があるのでした。

かれらの日常

 その夜、千代はビー玉を月にかざす。その横で、春子は看護婦さんになりたいという。
「いや、なります」
 そういう春子に、病気になっても安心やと千代は語りかけます。母と娘の姿です。
 ここからは、道頓堀の日常。
 岡福では、みつえやシズが忙しく働く。客はうまそうに食べとる。そこには、記念写真が増えとる。千代の凱旋公演も。
 NHK大阪では、長澤が脚本を見せる。舞台版映画版どれ? 当郎はいう。
「どっちもや」
 そうでした。これから『お父さんはお人好し』はこうして大人気シリーズとなります。
 そして一座の面々が写される鶴亀新喜劇。一平はこれからもほんまもんの喜劇を作り続けると言い切ります。でも家では我が子の新平を情けない顔であやす。昭和のおっさんですな。
 千代は春子の登校に付き添い歩いてゆく。道ゆく人は千代を「お母ちゃん」と呼ぶ。
 そして閉幕となるのでした。

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2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

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