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本の話をしよう|2023.8

先月、インプットとアウトプットの目標として、本を読むこと、そして書き続けることを挙げた。10冊読みたい、積読本を減らしたい、なんて書いてはみたが、結果はどうだったのか?

というわけで、8月に読んだ本の話をしよう。

うるうの朝顔 / 水庭れん

小説現代長編新人賞受賞作!

誰もが抱える普遍的な日常の中に、現実とたった1秒異なる過去を追体験でき、その瞬間から始まっていた心の「ズレ」が直る「うるうの朝顔」というファンタジーが溶け込む、わたしの好みの作風。
たった1秒で一体何が変わるんだろう?そもそも1秒をどう表すのだろう?と疑問に思っていたけれど、その1秒の描写を読んだ瞬間「そういうことかー!」と大きな感動を覚えた。
そして、「ズレ」が直るからといって、むやみやたらに悩みや後悔が消えるわけでもないのがまた良かった。寂しさや苦しさも残るから、だからこそ、前を向こう、進んで行こうとするんだな、人は。

なかなか暮れない夏の夕暮れ / 江國香織

「なんて美しいのだろう……!」と感動したタイトル

本の世界と現実が行き来するストーリーで、ゆえに登場人物も多い(現実だけでも10人は出てくる)のだけど、不思議とごちゃつかずにすっきり読み進めることができた。
本の世界に没頭すると、唐突に本から顔を上げた時に現実との境目がぼやけたり、ふとした瞬間に物語が蘇ったりと、白昼夢をみていたような気持ちになる。その感覚が随所に溢れていてとても素敵だった。
作中で主人公が読み進めていた、海外ミステリーの行く先さえも気になって気になって。笑
結局どうなったのかはわからずじまいだけど、それもまた、物語の余白のようでとてもよかった。

しろがねの葉 / 千早茜

直木賞受賞もナットク……

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山を舞台にしたストーリー。歴史ものではあるけれど、一人の女性の人生が軸になっているので読みやすいように感じた。
生と死、そして性は結びついて一直線上にある。それをここまで痛感したことはあっただろうか。
読み進めるにつれ、主人公が「女である」ことの不便さを実感する度、それがひしひしと伝わってきて胸が痛くなった。わたし自身、自分の意思に関係なく身体も心も変わっていく、あの戸惑いは今でも覚えている。しかも現代よりも「女は子を成してなんぼ」と言われる世の中であっただろうから、尚更主人公の苦しみに共感した。
だからこそ、喜兵衛の「男は女がいないと生きていけない」を意する台詞に救われたような気持ちになった。
読了後もしばらく圧倒され続けた。千早さん、すごいな。

ナナメの夕暮れ / 若林正恭

共感の嵐だったエッセイ

オードリー若林さんのエッセイ。ふだんメディアで彼を観ている時も、「わ〜頭の回転はや〜!凄い!」とは思っていたのだけど、文章になったらさらに凄い。面白いし皮肉だしグサっとくるのに、スーッと心に溶け込んでいく文章だった。
まえがきに「生き辛いという想いを抱えていて、息を潜めて生きている人はもしよろしければお付き合いください」とあったのだけど、自分がドンピシャにはまっていた、ってことだったんだろうな……笑

掬えば手には / 瀬尾まいこ

パッと目を引く黄色に惹かれる

あらすじの段階では少しファンタジーというかスピリチュアル?っぽさを感じたけれど、読み進めていくごとに心がときほぐれていくような、優しい物語だった。
ぶっきらぼうなバイト先の店長(アフターストーリー最高だった!)や友人の河野さん、香山など、周囲の登場人物たちもキャラが立っていて全員魅力的だった!
「心は読めるのに、全然主人公の話にならないな」と思っていたらそれが肝だったみたい。「自分は平凡だ」と思っている、あるいは信じ込んでいるような節があったけれど、読んでいる側からしたらここまで他人を思いやれるのは普通じゃないよ、と。
主人公と河野さんの関係性が良かった。『夜明けのすべて』でも感じたけれど、恋とも友情とも言えないけれど、お互いに信頼し合える男女の仲・関係ってとても素敵だよなぁ……

愛されなくても別に / 武田綾乃

いろいろな続きが思い浮かぶタイトル

実の親から搾取される描写が痛々しく、目を背けたくなりつつ読んだ1冊。
親という存在はある種の呪縛のようなものなのかもしれない、と思った。自分を産みおとした唯一無二の存在。ゆえにどんなに酷いことをされても、切り捨てるには相当の覚悟が必要になるだろう。だから、結果的にそういう決断をした彼女たちは今後も「逃亡」し続けるだろう。その「逃亡」すらも楽しそうに思える、希望に溢れたラストだった。
だからこそ、同じく親に悩んでいた木村はどうなったのだろう、と、少し怖くもなった。

嘘つきなふたり / 武田綾乃

『愛されなくても別に』の二人ともいつか出会いそう

『愛されなくても別に』がとても良かったので、武田さんが同じく女の子二人を描いた物語をもう1冊読んだ。
サスペンスとミステリーが絡み合うストーリーで、タイトルから二人が嘘をついていることはわかっていたのに、叙述トリック満載でまんまと騙された!元担任の胡散臭さは最初から嗅ぎ取っていたのに……。笑
予想がほぼ当たっていたので大きなインパクトは感じなかったけれど、ぐいぐい引き込まれてあっという間に読了した!

片をつける / 越智月子

わたしも片付けしなきゃな……(遠い目)

片付けや断捨離をテーマにした作品って、片付けが苦手な主人公が多い(気がする)のだけど、こちらは主人公が片付けを手伝うほう!あらすじを見ずに読み始めたから、その設定が新鮮だった。
片付けや物の取捨選択をしていると、部屋はもちろん頭の中もスッキリしていく気がするのだけど、その感覚がひしひしと伝わる情景描写。
二人がやんややんや言いながらも楽しく過ごしていた、そしてその日々はもうすでに終わってしまっていることは、冒頭の時点でわかってはいたのだけれど、中盤は終始楽しくドラマチックな再会もあったものだから、お別れがあまりに突然で呆気なくて、読んでいる側も置いて行かれたようにポカンとしてしまった。まるで、二人が過去に手放してきた、「目には見えない大きなもの」がもたらす穴のように。でも、その穴はもれなく大きいけれど、「心の中を吹き抜けていくその冷たい風はマイナスばかりじゃない」という言葉に救われた。
「自由に生きたければなくてもいいものを手放しなさい」。トルストイの言葉を、わたしも今後の日々のモットーにしていきたい。

カンヴァスの恋人たち / 一色さゆり

学芸員の仕事も垣間見れる1冊

同世代の主人公ということもあり、共感にあふれた物語だった。心の中で何度主人公を応援したことか……。
控えめな表現でありながら、人生の節目節目において「何かを捨てて、何かを選ばなければならない」という選択に迫られる苦しみがひしひしと伝わってきた。
主人公とヨシダさん、互いに背中を押す / 押される関係性がとても素敵だった。

結果としては、9冊読了。
漫画も含めたら11冊(違国日記の最終巻と3月のライオンの最新巻)なので、これは目標達成と思ってもいいだろう!

……と、言いたいところだが。
減らしたいと言っていた積読本は…………減っていません。むしろ増えている(!)ので、9月のインプットの目標は「積読本を減らす」に決定いたしました……。

本の話はこれにて。また次回!

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