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本の話をしよう|2023.7

言葉にすると余計にそう感じてしまいそうだが、毎日暑い。本当に暑い。猛暑を通り越して酷暑、激暑。それを通り越したら何暑になるんだろう。今日も今日とて熱帯夜の予感がする、7月最後の夜。
そんな7月に読んだ本の話をしよう。

火狩りの王 ≪外伝≫野ノ日々
/ 日向理恵子

山田先生のイラスト、圧巻……

先月から読んでいた火狩りの王シリーズ、これにて読破!本編より前の過去と、本編のその後の彼等を描いた物語。
過去編は、あの人にもあの人にも、灯子や煌四と同じような境遇があったのだなぁと切なくなった。その後の物語もまた、行き場のない気持ちが靄のように漂っていて……劇的な展開や救いがあるわけではないのがファンタジー小説にしては妙にリアルだった。

今宵も喫茶ドードーのキッチンで。
/ 標野凪

食欲そそられる装丁

がんばっている毎日から少しだけ逃げ出したくなったお客さんが訪れる、おひとりさま専用カフェ「喫茶ドードー」の物語。ここ2、3年のコロナ禍の最中が舞台で、当時いろんな制限がされていたことやあらゆる情報に振り回されていたことを思い出して、大変だったよなぁ、がんばったよなぁ、わたしたち。と改めて思った。(今もじゅうぶんコロナ禍の真っ只中で、がんばりも同じように続いているけれど……ね。)
疲れた心を癒してくれる料理がどれも美味しそうだった!そして店主が勧めたプレゼントはすべて断られているのがなんだか可笑しい。
第三者視点の語り手部分は好みが分かれそうだけど、童話チックでわたしは好きだった。短編で読みやすいなかで人との繋がりを発見してはおっと思う、なんともほっこり優しい物語。青山美智子さんの作品が好きなら好きだと思う。続編も楽しみだ〜!

鎌倉駅徒歩8分、空室あり
/ 越智月子

またまた装丁が素敵!

細々とカフェを営む主人公の元に友人が転がり込み、突然シェアハウスを始めてしまう。次第に集まってきたのは、何とも「ワケあり」な住民たちだった……というストーリー。鎌倉が舞台の物語にハズレはないと勝手に思っているのだけど、この本も見事大当たり!
さまざまな悩みや過去を抱える住民たちが、コーヒーやカレーの時間を通して心開いていく描写に、読んでいるほうも優しい気持ちになった。近づき過ぎない距離感がとても良い。
お隣の倉林さん、ただの噂好きなお喋りさんというわけではなかったのか!と、ラストの方で納得。おそらく倉林さんがいなかったらもう少しギクシャクしていたに違いない……しかし「あーた」と呼ぶのは強烈だった。笑
真相はせつなかったけれど、終わり方もとても美しい。
そして何よりコーヒーとカレー!どちらも香りですぐに引き込まれる料理。読みながら想像しては、いい香りが漂ってくるようだった。
続編が出るみたいで、今から楽しみ!☕️🍛

大人は泣かないと思っていた
/ 寺地はるな

タイトル共感率No.1

九州の田舎町を舞台に、農協勤務の主人公、隣の家の孫、結婚を反対されている友人らを取り巻く連作短編集。村だったのが合併して今は市、という同じ境遇にあったからか、村のしきたりだの男はこう女はこうだの言われることに関してはタイトル以上共感……。笑
無意識のうちに「こうあるべき」という鎖に、自分からつながれにいっていることがある。主人公と同様、先のこと、先の先の仮定のことばっかりを考えてしまうことがある。そんな自分とストーリーを重ね合わせて、寺地さんの言葉が頑なな心を溶かしていって、胸いっぱいの読後感。

白ゆき紅ばら / 寺地はるな

読み終えたあと表紙を見て、少し怖くなった……

愛と理想を掲げた夫婦が営む、行き場のない母子を守る「のばらのいえ」で育った主人公。高校卒業とともに逃げ出したが、十年後、あるきっかけでその家に戻ることになる、というストーリー。現在と過去を行ったり来たりしながら物語が繰り広げられるのだけど、混乱はなく、むしろ次々と伏線が回収されていくので、ページを捲る手が止まらなかった。
わりとはじめから志道さんに不快感のようなものを抱いていたのだけど、物語が進むにつれ嫌悪がどんどん膨らんでいった。「それってもしかして……」と思った悪い予感もバッチリ当たってしまい、半分くらい読んだところでぐったり……。
「あなたのため」とか「してあげている」という言葉や行動は、善意のようで実は人を縛り付けている呪いでもあるよなぁ、と考えた。
春日先生が現れた時、ようやくひと筋の光が差し込んだような気持ちになった。
「幼い頃に離ればなれになった二人の女性が大人になって再会する」というシチュエーションは一穂ミチさんの『光のとこにいてね』と同じだけれど、展開も結末も違う作品が生まれるのね。上手く言えないけど、なんというか、作家さんて本当に凄いなぁ……って思う……。(急に語彙力なくなった)
最近は専ら、寺地さんの本が精神安定剤となりつつあるな〜

街に躍ねる / 川上佐都

一昨年のポプラ新人小説特別賞受賞作

物知りで絵が上手い兄は、他の人から見ると「普通じゃない」らしい。同級生や身近な大人たちとの会話を通じ、初めて意識する世間に主人公は戸惑い、葛藤する。そんなある時、転機が訪れる……というストーリー展開。軽めのタッチで淡々と進んでいくのでテンポ良く読みきることができた。
兄が主人公に対して世間の話をするシーンが印象的。「世間は、たくさんの人で出来ているが、人は違う。血が通っていない」の台詞が良い。
最近手にとるのが「普通」や「普遍的」について考える物語が多いのは、多様性を重んじる世間になってきたから、なのだろうか。

金木犀とメテオラ / 安檀美緒

この表紙からすでにポニテの子に惹かれてた

北海道に新設された中高一貫の女子校を舞台に、少女たちの日々を通して焦燥や葛藤、そして成長を描く物語。
主人公の二人はいずれも、秀才かつピアノまたは絵の才能もある、と周囲からは一目置かれている。けれどそれは並々ならぬ努力の賜物で、しかも彼女たちは尚も現状に満足していない。
家庭環境がやや複雑ゆえのコンプレックスに、話したところでわかってもらえるはずがない、馬鹿にされるはずだ、と思い込んでいる二人はとてもよく似ているのに、互いを意識しすぎてそのことに気づかない。
他人と比較して勝手に劣等感を覚えることも、何でもかんでも自分軸でしか見えないことも、10代の若さゆえ。彼女たちが発する等身大の言動ひとつひとつに心が揺れ動かされた。同時に、ああなんて懐かしいんだ……と思えるくらいには、時が経ったということなのかな。
どちらかというと主人公二人ではなく、普遍的なみなみに共感しまくり。みなみの気遣いに、宮田がうわの空で返すたびに「ああ、みなみ……😭」と胸が痛くなっていた。
少女たちの未来に奇跡が降り注いでいて欲しい。

夏の体温 / 瀬尾まいこ

読み終えてから表紙を眺めると、尚良い……!

友情をテーマにした3つの短編集。
やり切れない気持ちを暗闇にひっそりとぶつけたくなる気持ちも、人付き合いが苦手なのは自分のせいだと思い込んでしまうことも身に覚えがあって、うんうん頷きながらサクサク読んでいってしまった。
『花曇りの向こう』はとても短いのに、新学期特有のぎこちなさと歩み寄りのバランスが絶妙……これが国語の教科書に載っているなんて、とても羨ましい……!笑
自分でも気がつかないうちに肩に力が入っていたり、ちょっとしたことで疲れたりした時、瀬尾さんの本はかたくなった心をあたたかく解きほぐしてくれる。読みながら優しさがスーッと自分の中に入り込んでくる感じ。今作もとても良かった……新作がとっっっても気になっています……(積読フラグ)

という感じで、7月は8冊読了。
来月はどんな本に出会えるかな、早速楽しみ。

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