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香りの森

香りや匂いにはさまざまものがある。人や食べ物が放つもの、花や生き物、海や土から立ち込めてくるもの、まだまだ他にもあるから書き連ねていたらきりがない。そして、香りや匂いは時として人の記憶を蘇らせる。それは幸福な記憶から抹消したい記憶の全てまでに至る。

私は部屋に立ち込めたどんよりと重たい、むっとするような空気が纏ったカビ臭く泥臭い匂いが苦手だ。誰でもそんな匂いは嫌いだと思うかもしれない。だが私は人一倍、その匂いを感じると息が詰まり激しい頭痛に苛まれる。私は幼い頃、一時期辛く苦しい環境に置かれていた。今まで誰にもこの話はした事がないしここでも話すつもりはない。ただ、あの匂いは悲しいほどにその幼き日の記憶を蘇らせる。私はこれを死の匂いと心の中で呼んでいる。死の匂いが立ち込めるところでは窓を開けようとするし、外に出たいと躍起になってしまう。地下街や電車内にも似たような匂いを感じて実はとても苦手である。死の匂いは静かに、そして確かに身近に息を潜めている。

香りや匂いは鮮烈に鼻を刺し、人の心をかき回し揺さぶる。まるで香りの森に迷いこんだかのように錯覚する。誰にでも忘れられない香りがあるのではないだろか。そして、あなたは香りから何を想うのだろうか。私は香りによって蘇る記憶を忘れられないのではなく、忘れたくないのかもしれない。

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