2021/1/19(火)「あっち、行かないで」

好きな漫才師が解散を発表しました。

人力舎所属の「ういろうプリン」というコンビ。

私がこのコンビに衝撃を受けたのはM-1グランプリ2019の3回戦。「自転車の2人乗り」というネタだった。

この年の3回戦は全コンビの動画が期間限定でGYAOにあがっていた。なので、M-1準々決勝までにたくさん視聴したのだった。ありがたいことに、ここで色んなネタに巡りあえた。

たとえば、オズワルドを初めて観て「ん?待て、俺このコンビノーマークなんだけど」と焦ったり。
シシガシラの上品な味わいに感激したり。
真空ジェシカの気持ち悪さがクセになったり。
ミルクボーイの「コーンフレーク」のウケ具合にもはや気持ちよくなったり。

そのたくさん観た組の中でも、ういろうプリンが一番の輝きを放っていた。別に、ミルクボーイが優勝したから、その逆張りでこう言っているのではない。ういろうプリンが一番面白い、一番すごいと思った。
何度も繰り返し視聴した。何度観ても面白かった。
そして、その動画がいつか視聴期限で消えてしまうことが怖くなった私は、そのネタをノートに書き留めた。
再生、停止。再生、停止。5秒戻る。再生、停止。
昔、英語の授業でやったディクテーションのように。
別に宿題でもなんでもないのに。何かに駆られて、わけもわからず、母国語でディクテーションしていた。
そして、冷静になると、やっと気づく。「あ、俺変なことしてる」と。でもこのノートのおかげで、私は今でもあのネタを頭の中で再現できる。

Youtubeにあがっているネタ動画もたくさん視聴した。中でも「タトゥー」のネタは、私一人で50回は再生したことだろう。

いつか必ず。
確信のようなものがあった。

いつか必ず、M-1の決勝に進出する。
M-1は実力順で上のステージに上がるわけではない。当然、決勝に行く組は全組実力者だが、上がれていない実力者だっている。十分実力があっても、たまたま上がれないことだってある。

で、あるならば。
実力者だって上がれないことがあるのならば。準決勝に行けなかったからと言って、それは、実力が足りない、ということではない。
ういろうプリンはまさにそれではないか。実力があるのに、たまたま上がれなかっただけ。
とすると、またチャンスがあるに違いない。絶対にチャンスがあるはず。

そう思ったところで、頭に浮かんだ。実力はあったのに日の目を見なかった、これまでのたくさんの漫才師が。どんなにライブを湧かせても、結局は上がれないまま終わった。そんな人たちが。

いつか必ず。
本当は願望のようなものかもしれなかった。
でも本当にそう信じていた。

何度もM-1予選で見てきた審査員は、二人の実力は十分承知しているはず。
だから、あと一跳ね。本当にどこか一つチャンスを掴みさえすれば。
さらに言うと、決勝まで上がってしまえば、力強くかつ後半に膨らんでいくスタイルは、初見の客とも絶対に相性がいい。
だからなおさら。もう一跳ね。それさえあれば。

ずっとそれを願っていた。
お二人がM-1の決勝の舞台に立つのを。
優勝するのを。
有名になるのを。
テレビで活躍するのを。
そしてより一層ライブを湧かせるのを。
ライブに通うことの叶わない、大阪から。
ずっと。
「実は俺、あの内間さんにツイッターフォローされてるんやで」なんて、周りに自慢することも含めて。
ずっと。
一部の友人に激しく勧めながら。ずっと。
古参の方からすれば私の応援してた期間など短い時間かもしれない。
それでも私にとっては、ずっと。

でも、願うだけなんて、本当に無責任で。
結局、お二人がチャンスを掴むために自分は少しでも貢献できたのかというと、何一つ胸を張れることなんてなかった。
チャンスが来れば、なんて。
そのチャンスをもたらすのも、チャンスまで耐えて待つのも、チャンスを掴むべく努力するのも、決して私自身ではないのに。

解散の報を受けてようやく、私はハッとする。
今まで私はお二人を応援しているつもりだった。でも実際には、お二人の存在を生活の彩りにしていたに過ぎないのだ、と。

ファンなんてそんなもの。

事実です。でもたったこれだけのことが、今夜は本当に重い。
この無力さは果てしない。そして、今になってやっと落ち込む凡庸さ、至らなさも、耐え難い。

それでも一丁前に、本当に悲しくて、本物の喪失感が日付の変わった今も持続している。

もっとたくさんの人に知ってもらいたかった。
もっと上に行くところを見たかった。
もっとネタを見たかった。

過去形ってこんなに切ないのか。


解散の知らせからまあまあ時間はたったはずなのに、ずっと心に穴が空いたよう。しばらくは埋まりそうもない。それどころか、実感が湧いてくるとより一層かもわからない。
でも、ファンなんてそんなもの。
悲しむことしかできなくて、それがなおさら悲しくて。それでも悲しむのです。
ファンだから。

ご本人たちの意思を尊重して、とりあえずお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。今までたくさん楽しませていただきました。これからも頑張ってください。
今度はもっとちゃんと応援したいと思います。

内間さんの背中が慰霊碑になりませんように。

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