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【10月30日~11月5日】一瞬でときめきを復活させる偉大なカニ

いただいたお土産のモンブラン大福がおいしかった。
秋らしからぬ夏日でびっくりしたけど、栗は栗だ。

秋。この時期になると毎年思う。
なにを贅沢なことを言っているんだ、という話なのだけど。

カニを食べることに飽きた。


私の父は車を運転することが好きで、車を走らせたいがためにどこかへ行く。毎年必ず行くのは梨の季節の鳥取と、カニの季節の兵庫の日本海・香住町。
香住あたりにはかれこれ20年以上のお付き合いになる店があるらしい。

香住といえば香住ガニ(ベニズワイガニ)をはじめとした海産物で有名で、長崎の海辺で育った父が海のものを求めて買いに走るのも頷ける。

実家では毎年5Lサイズの大きなカニをドンと買ってきて、夕方から焼き、夜はお鍋でシメはカニ雑炊というイベントが開催される。
街中で買うより断然お安いし、現地のいいものが手に入るので、趣味と季節の味覚が合致していてなかなかいいものだと思う。
今年は少しフライングじゃないか? と思ったのだけど、待ちきれない父がもう買いに走ってしまった。

ということで、迎えた今週末。
夜はカニが控えているというのに、私はどうにもテンションが上がらない。
20年以上、毎年のことなのだ。
カニに対するときめきの鮮度は限りなく底に近い。
私はおいしいものは好きだけど、量を食べられないせいか食につられることはさほどない。
カニには申し訳ないけれど、「なんならもう、シメの雑炊だけでもいいな……」なんてことまで考えていた。

が、中2女子はもちろん、わざわざ実家に集う兄夫婦もまたそれをとても楽しみにしている。
母もそれをわかっているから、半解凍にしたカニをせっせと捌く。
あれは結構な力仕事で大変なのだけど、こちらもまた20年以上繰り返してきたからにはもはやプロの域である。
どういう削ぎ方をすればカニの身が出しやすいかということを理解したうえで捌きまくる母。私は足1本で飽きるだろうし、そもそもできない気がする。
母は楽しみにしている子どもたち、ひいては孫のために精を出すのだ。

カニの威力、すごいな。


何度も言うけれど、もうカニにはときめかない。
出されたものを食べるだけという、一番ラクなポジションにいる者が一体なにを言っているのか。
中身がスカスカの、ハズレのカニを引かないのは父が目利きできる人との縁を大事にして毎年通うからで、母はカニ捌きのプロと化し、兄夫婦はそれはそれは楽しみにウキウキとやってくる素直さ。中2女子も喜んでいる。
喜ぶどころか、少しばかり面倒だな……とまで思っている私はいっそもう、食べる資格すらないのではないか。

というので、1年ぶりの再会だ。

一部。実家に行ったらもう捌かれたあとだった。

カニよ。変わりないな。
そんな淡白な再会を果たしてから1時間後。

いや、やっぱりおいしいな!?


結局、私はおいしいおいしいと言って焼き、鍋、雑炊とフルコースで満腹になっていた。
容易に復活するときめき。
冷めた女の愛情を余裕で取り戻すことができるカニ。
しかもすべてを許し、存分に旨味を与えてくれる懐の深さ。
もう興味ないし、なんて言っていても気づけば夢中。もはや脅威。

……というのを、ここ5年くらい毎年繰り返している。
実家のキッチンで後片付けをしながら思った。
たぶん来年も懲りずに、「カニもう飽きた」とこぼすのだろうと。


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