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メタバース美術展覧会のつくりかた【第2章:ツールの使い方やメタバースならではの工夫を紹介】

こんにちは、4rootsです!
第2章も読んでいただきありがとうございます。この章では、展示内容の設計やプロジェクトの進め方など、主に「企画チーム」の動きについて説明していきます。


2-1 企画チーム活動の概要

企画のチーム活動は主に、大まかな展示内容の設計、展示作成のための技術面の調査・試作、プロジェクトマネジメント、イベント企画です。
このページでは、各活動においてどのようなことを考え、どの時期に活動していたのかを詳細に説明します。うまくいくこともいかないこともありましたが、それらが今後企画周りに関連する内容に興味がある人にとって参考になれば嬉しいです。

2-2 技術面での動き

メタバース展示を行うとなると、どんなツールを使うかをまず検討し、その使い方を(知らない場合は)学ばなくてはいけません。具体的には、メタバースプラットフォームの選定、使い方や展示用のデータ作成方法(展示物=画像、映像、3Dデータ等の作成方法)ですね。この項目では、私たちがどのような検討を重ねたのか、どのようなことを学んだのかを記載します。

【メタバース空間の作り方】

そもそも、メタバース空間とはなにか、簡単に整理します。
メタバースとは、インターネット上の仮想空間のことです。私たちは今回、その空間を展示用に設計しました。

では、どうやって作るのか。いろいろ方法はありますが、まず制作エンジンを使って、仮想空間(ワールド)を作ります。
今回はゲーム制作エンジンのUnityを使用しました。

次に、作成したワールドをメタバースプラットフォームにアップロード、公開することで、誰でも見られるものになります。
▶こちらは、今回メタバースプラットフォームの一つであるClusterを使用しました。

私たちがClusterを選んだ理由
①無料でできる範囲が広い(ワールドを創作できる)
②日本企業であり、日本語のチュートリアル記事がたくさん出ていること
③日本語話者ですでに使っている人が多く、その人たちの体験談やHow toがネット上に溜まっていること
④Unityを使えば、コーディングを使わずにオリジナリティの高い空間が作れること(unityも無料でできる幅が広い)

 今回は制作陣がメタバース初心者であったため、②や③の理由を重視して決めましたが、美術系の鑑賞体験を作るのにもっと適しているとか、文化的な事例が多いプラットフォーム(spacialなど)もあります。そのツールの特性や背景を調べて選ぶとよいでしょう。

私たちがUnityとClusterを学ぶ際に行なったことは、以下2点です。

①学習レポート共有企画:毎週行った、運営全体のミーティングで、それぞれがUnityやclusterを扱ってみて発見したことを共有

②作家と、展示室の作成担当(作家につき1人)でペアを組み、展示室作成の計画を共有
→②については、以下のような簡易的なロードマップを作りました
(実際には、制作時期も合わせてスプレッドシートで共有)

【簡易的ロードマップの例】
1.箱を作る:
壁、天井、床などの最低限の構造。
この時点で、鑑賞者の動線や、見せたい角度などもある程度一緒に計画する。
     ↓
2.構造物にマテリアルをつける:
各材質をイメージした画像を箱=構造物の表面に貼り付けていくイメージ。例えば、フローリングのマテリアル、岩、水、タイルのマテリアルなど。
     ↓
3.ものを置く:
イスや照明器具などは無料の3Dデータがネット上にある場合があります。それをダウンロードしてワールドに入れたり、自分で3Dスキャンして作った立体データを入れたりします。
     ↓
4.ライティング:
Unityでは、光の個数、強さ、色など自由に調整可能です。
     ↓
5.その他の設定:
例)展示空間外の環境=地形や空模様など
また、ワープの設定や、順路を指示する看板、BGMなど、さまざまな要素を追加できます。その方法を調べる際は、展示室内でやりたいことを具体化し、検索すると方法を記載したサイトが出てくるので、それを元に試行錯誤しました。
ちなみにメタバースでは、アバター同士でチャットや音声を通じてコミュニケーションができます。それをどのように設計するかによっても、メタバースならではの展示にすることができるでしょう。
例えば、
・話すことを禁止する
・掲示板などに書く形式にする
・イベントを開催し、自由に作家にツアーをしてもらう など。

※当時Clusterで参考にした記事:
https://3dcg-school.pro/unity-probuilder-tutorial

皆さんの展示にあった設定を試してみてくださいね!

【作品の取り込み方】

本展覧会の4作品のうち、3つはリアルな物体として存在します。すなわち、メタバース空間に取り込むには、データ化しなければなりません。今回は、より作品の「物体としての」雰囲気を残すため、画像ではなく立体データとして取り込むことに挑戦してみました。3Dスキャンへの挑戦です。

3Dスキャンとは、現実に存在する物をカメラや専用の機械を使ってスキャンし、3Dのモデルデータを作る技術です。
まず私たちは、3Dスキャンについてどのようなものがあるのかリサーチしました。その後、いくつかのスキャン方法を実際に利用して比較検討しました。

検討したツール
①Artech Eva →非常に高性能な3Dスキャン機材。
②リアリティキャプチャ →フォトグラメトリ(写真などの2Dデータを合成し、3Dデータ化する技術)による3Dデータ化ソフト。今回は一眼レフで撮影した写真約200枚ほどを合成した。
③WIDER →3Dデータが作れるスマホアプリ。

ツールを使用した結果と感想
結果的に使ったツールは②リアリティキャプチャと、③WIDARでした。
②リアリティキャプチャはサタケヒデキ作品とnashi作品、③WIDerはHoshi Irena作品の3Dデータ化に使用しています。

理由は、扱いやすさと、データの重さです。

・このくらいのデータのサイズ
・スマホとパソコン

2-3 大まかな展示内容の設計

 メタバース展示に限らず、展示内容は最も大切なポイントですね。私たちは今回、まず全部屋に共有するルール作りや、そこにおける体験のポイントを議論し、その後、細かな設計は出品していただいたアーティストと一緒に作成しました。この順序により、人数が多くても混乱を少なく円滑に進められたかなと思います。以下が、実際に検討した体験のポイントになります。

【展示内容】
・フックとなる「問い」の設定
・規模感…具体的な部屋数など
・どんな雰囲気を作りたいのか
・ロビー(展覧会の総合入口で最初の部屋)の様式
  ・各作家の展示へつながるスタート/ゴール地点
  ・ロビー構成
  ・ロビーから各展示室に向かう動線のデザイン
  ・来場者のコミュニケーションがあるかどうか
    ・音声の混乱などを防ぐ
    ・作品の邪魔にならない程度の存在感
  ・展示タイトル、企画説明
  ・提示する情報
  ・部屋の構成
  ・制作過程の見せ方:道具の紹介、過程の説明、映像や画像
  ・着想をどう表すか(本や文章の引用、過去作品など)
  ・個別作品展示室
・制作過程や着想でどんなものを提示したいか

次に、企画のステートメントを作りました。ステートメントとは、対外的に発信するための企画の立場(目的、理想、手段など?)を文章化したものです。この文章を作成することで、チームで「どのような企画にしたいか、どんなものを提供するのか」という点において認識の擦り合わせを行えるというのがメリットとなります。

企画のコンセプトを作る上でこのような観点を考えました。企画のコンセプトを考えるとは、つまり運営の求めるものと参加者のニーズをどちらも満たす世界観を作ることです。やる気があってもここでつまづく人も多いです。ここで躓く人も多くいるので時間をかけて取り組みましょう。

【メタバース展示で考える要素】
・経済面や物理的な障壁により
・展覧会を開催しにくいアーティスト向けの企画か
・アーティストのニーズを満たしているか?
・来場者のニーズを満たしているか?
・来場者の属性(年齢、芸術の興味深い)の理解
・独自性があるか?
・自分たちがやる意味があるか?
・その展覧会に必要な人材はどんな人?
・アーティスト、空間設計、UI・UX設計、サイト制作、プロモーション・・・

部屋の構成については企画から運営全体に持ち込んでかなり時間をかけて考えました。結果的に、部屋の数や順番などをきっちり枠組みとして設定するのではなく、

  • 作品の展示(スキャンデータを用いる)

  • 制作過程の説明

  • その他世界観に関する着想を表現する

という構成要素を満たしていることが最低条件となりました。この理由として、制作状況に応じて部屋の構成もまた変化する可能性があり、各部屋の設計やコンセプトを優先するという方針に即して、決定しました。

調べながら作り終えた後に感じたのは、展覧会名を文字としてはっきり見せることと、鑑賞者にとってほしいアクションを言葉で明示することが大切だということです。世界観を伝える上では、ビジュアルでのイメージと言葉での説明がどちらも必要です。特にメタバースという特殊な環境でそれをやるには、どちらも欠かせません。例えば、メタバースという特殊な環境の世界観は、ビジュアルイメージで最もよく伝わりますし、順路やワープの場所など、鑑賞者が迷わずに楽しむための行動は言葉の方が明確に伝わります。

2-4 プロジェクトの進め方

実際に展示の制作をすることになった時に最も大切なのは、プロジェクトマネジメントです。各チームごとにどのような進捗で進んでいるのか、遅れているなら何が要因なのかをきちんと把握することが重要です。私たちは、以下のように進捗の擦り合わせを行なっていました。

  • Slackでの報告:週に1度で進捗や遅れている原因を報告

  • 運営サイドで各作家さんとの制作スケジュール表を作成して共有:このやり方では最初に大体のスケジュール感を引く必要性があり、なんとなくこの時期にはこの作業をしなければならないというロードマップをみんなで知ることができるのでおすすめです。

以下がとあるチームのスケジュールロードマップとなっております。必要でしたら参考にしてみてください。

【ロードマップ(日本画作家)】
・5か月前:コンセプト設計
・4か月前:展示室①の作成開始、スケッチ開始
・3ヶ月前:展示室②の作成開始
・2ヶ月前:展示室①の完成、展示室③の作成開始、メイン作業期間(9日間)で完成まで持っていく
・1ヶ月前:展示室の完成、作家さんが旅行のため動けない

2-5 イベントについて

メタバース展示で多くの人に作品に触れ合ってもらうために2回メタバースイベントを開催しました。この項目では、そのイベントを開催するまでのステップや行動を記載しております。

そもそもClusterでできるイベントについて

できるイベントについて

このように、Clusterでは展覧会のテーマに即したワークショップや紹介イベントを行うことが可能となっております。参加者人数上限など諸制限があるのでご注意ください。
イベント管理者・ゲストの違い

イベントを開催するにあたって

私たちの開催した企画の特徴的なところは「ギャラリーツアー」の形式をとっているので、複数のイベントに移動する必要がある点です。  

各ワールドを会場にしたイベントをつくる

移動のタイミングになったら適宜イベントを開始

運営がポータルをひらいて移動先のイベントに誘導

という流れでイベントを続けていたので、リハーサルやタイムスケジュール設計は、熱心に取り組みました。

この項目では、私たちがイベントを開催するにあたってどのようなタイムスケジュールを組んだのか、どのようなイベントページを作ったのかをお見せします。

イベントの案内


ここまでメタバース展覧会を開催する上で使用したツールや展示内容の設計やプロジェクトの進め方を紹介してきました。

次の記事では実際の展示風景とその裏側をお届けしていきます。


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