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(短編) 不登校 中谷真理亜

「あなたの髪は本当に綺麗ね。シャンプーのCMみたい。」
母は私の髪を梳かしながら、いつも褒めてくれた。
「ママの髪はくせ毛だから、羨ましい。」
一日の終わり、洗いたての香りに包まれ母とすごす時間。
櫛が通り抜けた髪を、母の手が優しくなぞる。一歩外に出ればちっぽけで醜い私のすべてが許される時間。母のおかげで自分のことは嫌いでも、自分の髪だけは愛することができた。
そんな私の救いはある日突然奪わた。
私の髪を輝かせてくれるもう人はいない。
夜、梳かす人のいなくなった髪は、蠢き絡まり合った。
それは、足に絡み、腕に絡み、指に絡み、胸に絡み、首に絡み、呼吸に絡み、思考に絡み、思い出に絡み、時間に絡み、私と母に絡みついた。

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