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(短編) 会社員 鈴木卓也

社長に呼び出された。
やっと社長の耳にも届いたのだ。
今まで何回も言おうと思ったが、告げ口みたいで言い出せなかった。
僕の部署の人はとにかく遊んでばかりいる。
それも子供のような遊びばかりだ。
突然始まる缶蹴りにかくれんぼ。作業中に人がいなくなった。
昨日も、何の前触れもなく誰かが隣の人に『タッチ。』と言って肩を叩いた。それが、3分後には部署全体での鬼ごっこになっているのだ。当然のように、上司も一緒になって遊んでいる。
最後は僕がタッチされ、僕が無視して仕事を続けたため鬼ごっこは終了した。
こんなことが毎日行われているのだ。
つまり、仕事はほぼ僕が一人でこなしている。
僕は、山ほどある言いたいことを頭で整理しながら社長を待った。
そこに社長がやってきて僕の前に腰を下ろした。
「ある話を耳にしてね。君から直接聞きたいんだが…。君…。何で鬼やらないの。」
「えっ。」
「聞いたよ。タッチされたのに鬼をやらなかったそうじゃないか。なぜだい。」
「それは仕事中だからです。」
「君はなぜ上司のすることに従わないのかね。」
「鬼ごっこなんて、するべきじゃないからです。」
「君ね、会社は組織なんだ。輪を乱すようなマネは困るんだよ。」
「会社にとっては働かない方が困るのではないでしょうか。」
「そういうとこなんだよ。君はこの会社で働いているのは自分だけだと言いたいのかね。」
「違います。あの…。僕が言いたいのは…。」
「わかった。君には辞めてもらう。君の言い分が正しいなら、唯一働いている人間がいなくなる事になるが、まあ、なんとかなるだろう。君はクビだ。」
あれから5年。あの会社のCMが今も流れている。

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