『満天のゴール』

『満天のゴール』藤岡陽子

誰かの星になる。

『満天のゴール』は夫との問題を抱えた主人公・奈緒が故郷に戻り、看護師として働くとともに人間の生き方、そして死という『人生のゴール』に向き合っていく物語である。

この物語で最も印象に残っているのは、奈緒と同じ病院で働く医師・三上の、
「人が人と関わり続ける限り、相手を想う気持ちが生まれるんだよ」
というセリフである。このセリフを初めて読んだとき、まさにその通りだと思った。たとえば、電車でお年寄りに席を譲ったり、忘れ物を届けたりしている人がいる。これは日常でよく見かける、何気ない風景である。しかし、前からそれを見る度、感動の気持ちとともに、自分にはそれが出来ない、それをする勇気がない、という悲しさを感じていた。そんなわたしをこの三上のセリフは、『誰かを想い続けることが素晴らしい』と肯定してくれたように感じた。

もう一つ、この物語の中で印象に残っているセリフがある。それは、
「誰にも救ってもらえないのなら、あなたが救う人になればいい。救われないなら救いなさい」
というセリフである。初めこのセリフを読んだときは、正直よく分からないと思った。自分が救われず辛い思いをしているというのに、誰かを救う余裕などあるはずがないと。しかし、この言葉を聞いた三上は、
「救われないことを嘆く必要がなくなった」
と語っていた。三上は強いひとだと思った。苦しさや辛さを誰よりも知っているからといって、誰かを簡単に救える訳ではないはずだし、自分も辛さを抱えているのに、それでも誰かを救おうとするのは大変だろうと感じたからだ。けれども、三上は前を向き続けていたし、誰かに弱さを見せることもなかった。それは私には到底出来ないことだと思ったけど、彼にとって誰かを救うことは自分を救うことなのではないかと感じた。
三上のセリフの中に、
「後悔は自分の失点です。だからその失点を人生の残り時間でなんとか挽回したい。ぼくはそう思いながらなんとか生きていますよ」
というものがあった。三上の後悔とは、愛する人に辛い思いをさせてしまった経験のことである。だからこそその後悔を挽回するため、愛する人からもらった言葉を大切に、誰かを救い続けているのではないかと思った。

この物語の終盤に、三上は公開の相手である早川順子と再会を果たす。しかし早川の患っている病気を治すには既に手後れで、早川はその後、人生のゴールを迎える。

わたしはこの物語を通して、三上のように強いひとになりたいと思った。三上は、これまでにたくさんの人のゴールを見届けてきていた。どれだけ長く寄り添った相手がゴールを迎えても、優しい言葉をかけ決して涙を見せなかった。また、三上は患者を一番に思ってその意見を尊重し、親族に酷い言葉を浴びせられたときでも必死に説得を試みていた。言葉にはしていなかったけど、それは三上の誰かを想う優しさだと思った。

そして私は、この物語で誰かを想うことの大切さと後悔の重さについて学んだ。誰かを想うことで救われる人も、過去もある。それに対し後悔は、時に人を駄目にしてしまうことがある。しかし、人を強くし、前を向かせ背中を押してくれることもある。後悔というものは、自分がそれに対して精一杯の全力で取り組んだからこそ残ってしまうものだと思う。だから私は、その悔しい気持ちを忘れずに過ごしたいと思う。

物語の最後に、奈緒が
「誰かの星になる」
と考えるシーンがある。
誰かを照らす星になるということは、大変で難しいかもしれない。それでも確かなことは、自分が一生懸命に誰かを想い続け、前を向けるようになれば、ゴールを迎えた先にその未来は待っているということだ。
わたしも三上や、三上を照らす早川のように強く、そして誰かの星になれるように、自分に胸を張って生きていきたいと思った。

満点の自分をめざして。

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