現血

血というのは、ほかの何にも例えられない不思議な感じがする。

床に落ちた白い破片を拾って、それが親指の先に当たった後にふと床を触ったら、ぬるりと赤い液体が弾けた。
どこから弾けたかと周りを見渡すとそれは自身の親指の爪の間で、気づいた途端に痛みがじくじくと現実になる。

おや、と思って人差し指で親指に伝う赤色をつまんだ。
やはりぬるりと人差し指に拡がった。
この「ぬるり」は、自分の血のみに感じる音だと思った。
どうしてかな、と人差し指を見つめて考える。

これはさきまで私の中に流れていたんだな、と考える。
だから私と溶け合うように同じ温度で、まるで別のものには感じなくて、それで、「ぬるり」。

だって、本当にさっきまで、溶け合っていたのだ。
私たちは一緒の個体だったのだ。
そう思っているのは私だけで、中を流れて生きていたこの、見えないほどの大量の紅は、ひとつひとつの個体だったのかもしれない。
だけど確かに同じ温度で寄り添っていただろう?


気がつけば私のそれは流れることをやめ、黒く固くなっていた。
立ち上がって蛇口をひねり、水に流す。
私の時間を振り返ろうともしないそれは、呆気なく新しい透明に溶けて、排水溝の底へ見えなくなっていった。

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