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『始まりの一二月』

無意味な比較だとわかっていながら
わざと過去に隠れたり
先走り未来を浮遊していた
いっそのこと君の部屋
僕のモノで埋め尽くしてしまえればよかったのに
食べたらなくなってしまうものばかりで
冷蔵庫だけが音を立てるよ

実はどうだっていいんだ
その名前も喋り方も色も時間も

撮り溜まったネガフィルム
食べ続けたカレーライス
試着が止まらなかった古着屋
どこまでも走り続けたドライブ
どこまでも歩き続けた東京都内
どこまでも眠り続けて午後三時
たまたますれ違った横断歩道
大きな満月を浴びた夜の海

甘すぎるドーナツも
深夜にすするラーメンも
朝まで泣きながら話したことも
何度もサヨナラを告げたことだって

実はどうだっていいんだ
もう

本物のサヨナラが誕生したよ
サヨナラをしたあとの
もう一度の、サヨナラを
君は眠そうな顔して吸い込んだ
ドアの向こうで手を振る君と
家の中から手を振る僕は
いったいこれからどう吐き出すの

立ち去ったあとの冷え込みに
ひとり泣き喚いてしまうけど
これはただ一二月の寒さが
直接的に攻撃してくるからで
これはただ一二月の始まりが
間接的に情緒をつくり出すからで

君がさっきまで穏やかな寝顔をして
眠り続けてくれていたことに
ありがとうを伝えるよ

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