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約35年ぶりに「まんがで読む枕草子」

80年代の終わりにNHKで放送していた「まんがで読む枕草子」という20分番組を子どもの頃、欠かさず見ていた。わたしの平安時代好き、清少納言好きは、これで始まって、氷室冴子「ざ・ちぇんじ!」「なんて素敵にジャパネスク」で決定的になったので、今でも思い入れがすごくある。

大河ドラマ「光る君へ」で今また平安熱がぶり返してきて、こうなったらNHKに掛け合って映画館で「まんがで読む枕草子」上映ナイトができないかしらと妄想していたところ、なんと今、NHKオンデマンドで配信しているのだった。初回だけ5/31まで無料。

気になることはまず検索だよ、現代……。今の今まで配信開始を知らなかった自分が恥ずかしい。さっそく第5回まで見てきた。

放送当時のおぼろげな記憶とWikipediaと配信ページ、本編エンドクレジットの情報をまとめておくと――。

「まんがで読む枕草子」
1988年10月から2クール(半年間)、NHKで放送されたテレビ番組。NHKによれば「ディスクジョッキーと漫画映像を組み合わせた若者向け古典講座」だそうで、教育テレビ(現在のEテレ)ではなく、たしか総合のほうで、夜、早くはない時間帯に放送していたと思う。でも、家族みんなで見て、特に早く寝るように言われたりした覚えはないので、深夜ではなかったはず。20分番組なので、21:40~22:00ぐらいか。

原作:清少納言「枕草子」
脚本:橋本治
構成:小林政広
出演:清水ミチコ、鳥越マリほか
漫画原作:橋本治「桃尻語訳 枕草子」(河出書房新社)
キャラクターデザイン:赤星たみこ
作画:小熊公晴、グループ タック
声:杉田郁子、大山尚雄、山寺宏一(第4回)
放送期間:1988年10月4日~1989年3月14日(全19回)

鳥越マリさんは黒髪ロングで着物をお召しになり、番組中はずっと、「ナゴンちゃん」こと清少納言を演じている。清少納言として清水ミチコとトークし(台本あり)、ゲストと対談し、紙芝居型アニメに声をあてている。清少納言を解説しようとするのではなく、清少納言本人が出てきて現代人とおしゃべりしてしまう演出が、子ども心に新しく感じられていた。

それと、当時は気づかなかったけど、短いコーナーがいくつもつまってテンポよく構成されている。原文朗読、アニメ、レギュラー二人のトーク、ゲストとナゴンちゃんの対談、みっちゃんのピアノなど、20分しかない番組なのに細かく割ってあって、だから子どもでも飽きずに見ていられたのかもしれない。みっちゃんもこの番組のためだけに作った曲を披露していたりして豪華。

番組のベースになった本。実家に長い間あったので、この上巻の表紙はよく覚えている。

もちろん、今見ると「はて?」と思うところもある。枕草子になんの関係もないただの人気者がゲストになっていたり、“イケメンが登場すると女芸人が前のめりになる”ムーブをみっちゃんが取らされていたり、紫式部や「源氏物語」への評価が不当に低かったり。しかし、楽しいところはその何倍もある。

ゲストが“言葉”について語っているところなんか興味深い。「『いとこそをかし』ってどんな日本語なんだよ」と言って、清少納言の言い回しは独特だから訳しにくいというグチのような褒め言葉をナゴンちゃんにぶつける橋本治。80年代当時のギャル語事情について秋元康が「今は情報が多いからしゃべるスピードが速い。省略も多い。性別や年代にふさわしいしゃべり方をしようという意識が希薄なのでおじさんも使いがち」などと端的に説明したり。

“みっちゃんとナゴンちゃん”の寸劇トークは時代背景もあってか明るさ軽快さに満ちているし、パフェやシャボン玉などが用意されると、台本にないリアクションが入ってきて、生っぽさが出るのがまたいい。シスターフッドという言葉が影も形もなかった時代でも、定子と清少納言の間に確かにそれがあったように、みっちゃんとナゴンちゃんの間にもそこはかとなくそんなようなものが存在していたように感じられる。

アニメもいい。赤星たみこさんのキャラデザは今見ても古くないし、例えば扇がキャンディー柄だったりして、80年代のファンシーさやキッチュさに頬がゆるむ。「光る君へ」では人望不足のダメ御曹司キャラになっている藤原伊周が、この番組では宮仕えを始めた当初のナゴンちゃん目線でなかなかかっこよく描かれていて、やっぱり誰の視点で見るかによってものの見え方はガラッと変わるものなんだと思ったりもする。

これは全19回見るし、リピートもするだろう。時間を溶かしてしまうのもやむなし。

余談だけど、上映イベントを夢想したとき、鳥越マリさんが今どうしておられるかで実現の可否がほぼ決まる気がしたので、おそるおそる検索してみたら、芸能活動こそ退かれているものの、お元気そうな様子を発見できた。仲良しの三田寛子さんと一緒に観劇などを楽しまれては、三田さんのインスタグラムに写真付きで登場されている。今年4月にも。勝手にうれしい。

清水ミチコさんはいわずもがな国民の叔母としてお元気に活躍中だし、橋本治さんは鬼籍に入られたけど今ちょうど横浜に「帰ってき」ておられるようだ(神奈川近代文学館「帰って来た橋本治展」)。

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