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リスクを洗い出すにはどうすればよい?

はじめに

 「毎日5分でいいからリスクを考えてみて」

 先輩からの一言でリスクを考えることになりましたが、そもそもリスクとは何かを理解していませんでした。リスクを理解するためには、「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」を読むといいとアドバイスいただきました。
 本記事はリスクについての記事です。筆者が本書を読みリスクについて学んだ後、本記事執筆を一つのプロジェクトとして捉えたとき、どういうリスクが見えていなかったのか、リスクを洗い出すにはどうすればよかったかを、実体験をベースに振り返りました。リスクについて少しでも考えるきっかけになれば幸いです。

そもそも、リスクとは?

 本書ではリスクを以下のように定義しています。

①将来起こりうる出来事で、望まない結果を生むもの。
②望まない結果そのもの。
「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」より抜粋

 望まない出来事に紐づくことがリスクであるならば、リスクを負わないことは最善だと考えるでしょう。しかし、リスクを取らなければ得られないことがあるため人はリスクを取るのです。また、リスクを負う際は、同時にリスクに対する対策(リスク管理)も考えなければなりません。リスクに対しての対策があるからこそ、適切にリスクを取ることができるのです。

 では、仕事では適切なリスク管理はされているでしょうか。リスク管理は仕事が順調に進んでいるときには表面化しにくく、仕事が立ち行かなくなったときにはじめて真価を発揮します。リスク管理ができていれば、リスクが表面化することはほとんどなく、例え表面化しスケジュール遅延や手戻り発生などの問題となったとしても、落ち着いて対処することが可能になります。しかし、リスクの洗い出しができておらず、リスク管理もできていなかった場合は、それが大きな障害となり失敗に繋がる場合があります。

 このリスクとは、問題が発生するまで気付かないようなものなのでしょうか。心の片隅では納期に間に合わない不安や、障害が発生する可能性などというリスクを感じても、リスクが表面化して問題になることはないと言い聞かせ、見ないようにしていたことがあるのではないでしょうか。本書は、多くの人が見て見ぬふりをするリスク管理に正面から向き合う本です。そして、そのリスクも対しての対抗策や、リスクを定量的に評価するなど、リスクを管理するための方法を学べる本です。

本書で印象に残った部分

 本書で筆者が特に印象に残ったのは以下の3点です。
①この業界には、「やればできる」思考が蔓延している。
②問題は早い時期に違和感(リスク)を見て見ぬ振りをしたことが原因である。
③リスクは発生するまでは抽象的な概念に過ぎない。

 印象に残った3点について、実体験をもとに考えてみます。

①やればできる思考が蔓延している

この業界には、「やればできる」思考が蔓延している。そのせいで、「できない」ことを示すような分析は叩かれる。明確なリスク管理の基盤がない状態でリスクを発表すると、発表した人が困った立場に立たされる。負け犬、やる気がない、敗北者主義といった烙印を押されるかもしれない。
「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」より抜粋

 「やればできる」思考は筆者も持っていますが、それ自体が悪いことであるとは思いません。上司からの依頼など、どうしても断れないものはこの世には存在するのではないでしょうか。本記事執筆も先輩社員からの依頼時に、何とかなるだろうという気持ちで引き受けてしまいました。引き受けたからこそ学べることも多かったため、「やればできる」と考えて様々な経験をすることは悪いことには思えません。

 では、何が問題となるのでしょうか。筆者は「やればできる」思考から生まれた、「どうせリスクを考えてもやらないといけないことは変わらない。それなら考える時間も作業してた方がいい。」というリスクを軽視する思考こそが問題であると考えました。

不確定要素を明確に宣言していない場合、思いつく限り最高の結果を達成できなければ失敗である。リスク管理をしなければ、高めの目標と妥当な期待を区別できない。
「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」より抜粋

 リスクを考えていない場合は妥当な目標設定を行うことが困難になります。筆者も「やればできる」思考で、締め切りありきでスケジュールを作成した際、客観的に見ると実現不可能な、バラ色のスケジュールが出来上がり、自分が現時点で考えうる最高のものが成果物として出来上がっていると信じて疑いませんでした。そんな現実離れしたものを実現できるわけもなく、途中で軌道修正するまではスケジュール・イメージ目標は完全に失敗し、達成できなかったことでモチベーションも自己肯定感も失ってしまいました。リスクを考えないことで、実現可能なスケジュール、実現可能な目標を作成することができず、プロジェクト終了後は思い描いていた理想と現実のギャップにやられ、モチベーションや自己肯定感が下がってしまうのです。リスク管理をしないことの代償は非常に大きいものとなります。 

②問題は早い時期に違和感(リスク)を見て見ぬ振りをしたことが原因である

 では、リスクを洗い出すためには、見て見ぬ振りをなくせばよいだけなのでしょうか。筆者は本プロジェクトを通して、「見て見ぬ振りをしたリスク」と、「そもそも見えていなかったリスク」という、2パターンのリスクが存在すると感じました。

見て見ぬ振りをしたリスク

 「見て見ぬ振りをしたリスク」は、自分の能力を過信したものであったり、一旦後回しにして考えることを忘れたりしたものでした。本プロジェクトでは「本書を読んで理解した、だから実際にリスク管理できるだろう」とできないことなど微塵も考えていませんでした。自分の能力を過信したために発生したリスクです。

 自分にとって不都合な出来事はリスクそのものです。受け入れたくない部分も多々あるでしょうが、そのリスクとしっかり向き合うことで、現状では何が足りず、それをプロジェクトを通してどう学びどう生かすか、このように目標を明確にすることができます。本プロジェクトの場合、「本書の内容を実施できるレベルで理解できていない」という不都合な出来事に向きあえたからこそ、リスクを理解できていなかった部分にフォーカスして記事を書くというアイディアも生まれました。

そもそも見えていなかったリスク

 「そもそも見えていないリスク」は、自分の考えられるリスクの外側にあるものです。そのため、想像力を鍛えるか、実際に経験してみることでしか見つけることはできません。しかし、経験していないからといって、「やったことないから、リスクなんて想像できない」と思考を放棄してしまうと、リスクに飲まれてしまいます。リスクに飲まれれば目標もスケジュールも妥当に立てられず、達成感を得られず自己肯定感も下がってしまいます。

 厄介なことに、見えていないリスクを考えることは非常に難しいです。筆者も本書を読んだだけではこの部分のリスクを洗い出すことができず、実際に経験・失敗を通して、見えていなかったリスクの一部を見ることができました。それはなぜでしょうか。

リスク

③リスクは発生するまでは抽象的な概念に過ぎない

リスクは発生するまでは抽象的な概念に過ぎない。プロジェクトに影響を与えるかもしれないし、無視したからと言って、しっぺ返しを受けるとは限らない。しかし、リスクを考えなかったという管理上の過失については責任を免れない。
「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」より抜粋

 リスクは発生するまで抽象的な概念であり、発生したリスクが問題となることではじめて具体化されます。そのため様々な問題を経験すれば、それだけリスクを洗い出す視野は広がります。しかし、「そもそも見えていないリスク」は経験したことがないリスクであるため、抽象的に考え、その後ケースに落としていくというように、想像する力が必要となります。

 本プロジェクトでは「作業の後退」は1つのリスクでした。1度先輩社員にレビューをいただきokを貰った記事の骨子を、再度ゼロベースで修正することはないと無意識に考えていましたが、実際にゼロベースで考え直す「作業の後退」が発生しました。作業の後退というリスクが、ゼロベースで骨子を考え直さないといけないという問題となり、その結果スケジュールに遅延が発生しました。少し考えればわかるようなリスクを野放しにし、それが問題に変わってしまったときには、ものすごく大きな打撃となってわが身に降りかかってくることを痛感しました。

では、今後どうしていくべきなのか

想像力を鍛えて仮説を立てまくる

 リスクを考えずにたまたまうまくいっていたとしても、次もそうなるとは限りません。リスクを洗い出すうえで経験は重要ですが、経験がないからと言ってリスクを考えないことはあってはなりません。そのため、「想像力を鍛えて仮説を立てまくる」という力が必要になります。

 はじめのうちは突拍子のないもの・的外れなリスクも出てくると思います。抽象化(リスクの洗い出し)は出来ても、そこから問題・対策(リスク管理)までは考えられない場合もあるでしょう。しかし、まずリスクについて考え、気が付くことは非常に大切です。リスクに自分だけ気付くことができれば、問題・対策は経験豊富なチームメンバーがカバーしてくれるかもしれません。そのおかげで、おおきなしっぺ返しを食らわずに済むかもしれません。リスクを洗い出すことで、プロジェクトに大きく貢献できるのです。リスク管理まで考えられなくてもいいのです。まずはリスクを想像することで、若手でも十分にプロジェクトに貢献できることを証明してみませんか?

最後に

 この記事を読んで、リスク管理に少しでも興味を持ったら、ぜひ身近なものでリスクを考えてみていただきたいです。また、リスクを洗い出したのち定量的に管理してみたいなど、リスク管理も知りたいと感じたら、ぜひ本書「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」をご一読いただきたいです。
 本記事を読んでリスクに少しでも目を向けていただければ、筆者としてこれ以上の喜びはありません。

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