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グラフィック、デジタル、アート……「デザイン」に境界はないと思う。 【Inspired Night vol.1 レポート】

昨年10月にアートディレクターとしてフォーデジットへジョインした荒井康豪さん。日本デザインセンターへ15年以上勤め、グラフィックデザインの長い経験を持ちながら、次のステップとしてデジタルデザインの領域を選びました。
そんな荒井さんの携わってきた仕事や、デザインに対する視点をシェアしてもらうイベント「Inspired Night vol.1 -荒井康豪の解像度-」が開催されました。

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これまでの作品の紹介とともに、デザインとアートへの情熱、グラフィック領域からデジタル領域への視点の変化など、アウトプットに混められた1ドットまで、分解して語ってもらいました。

「デザイン=自分」だ。呪いが解けて“個”が確立されるまで

大学を卒業後、デザイン事務所でデザイナーとしてのキャリアをスタート。「綺麗なものは作れるけれど、自分の表現を何も出来てないな」と悩んでいた頃、日本デザインセンターに入社した。

「アワードへ挑戦することを推奨されていたので、応募のために上司に見てもらうんですが、なかなか認めてもらえず...。それがおよそ7年。否定されることに落ち込んでいたというよりは、デザインの背景にある宗教や歴史、精神的な表現の深さに気付いて、“デザイン”に異常に憧れ心酔していました。どれだけやっても届かないような気がして、自家中毒のような状態に…今思えば呪いにかかっていたようでした。」と荒井さんは語る。

ブレイクスルーは突然訪れた。知人からの依頼で鍼灸会社のポスターを作成したときのこと。斬新なアイデアから見たことのない表現が生まれ、高く評価される。自身の作品で初めてアワードを獲得した。

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鍼灸会社のポスター。カラフルな鍼を実際に人の背中に刺し、「春がきた」という楽曲の譜面と音符を描く。治療によって「鼻歌を歌いたくなるくらい心も身体も軽くなる」ことを表現した。ONE SHOW DESIGN 金賞、ニューヨークADC MERIT賞を受賞。

「今こうやって見返してみると狂ってますね」荒井さんは笑うが、作品に“個”を出す大切さに気付いたという。

それからは「デザイン=自分」だと考えるようになった。自分らしさを表現し、自分に近いものをつくる。「自分の色でなければ出したくない」ほどにこだわりを強く持って制作に取り組むようになった。

この頃には上司の言葉もあまり気にならなくなっていたという。ある日、「荒井の作品はなぜか票が入る。自由にやれ!」と笑顔で言われたことで、呪いが少し解けたように感じた。「実質認めてもらえたと感じました。平成で1番嬉しかったです(笑)。」

デザインの難所は「時間」と「新しさ」

さまざまなプロジェクトに取り組んできた荒井さんに、デザインの難しさはどこにあるか聞いた。ひとつは「時間」だ。

例えばロゴのアイデアを練り上げるとき。たくさんの字体や太さで書いてみては寝かせ、眺めては寝かせて…を繰り返し熟成させる。この作業は時間との勝負。納期までの限られた時間で、自分の中で「これ」という答えを見つけることが、荒井さんにとって難しさのひとつだという。

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リノベーション、中古マンション再生流通事業を行う不動産企業のリブランディング。会社名を眺め続けていたら見えてきた「- + = ×」を「壊して、足して、倍の価値を生む」というリノベーションのバリューと重ねて表現した。

もうひとつは、受容される「新しさ」。

「クライアントの想像通りではなく想像の上を行く新しいもの。そういう考えもあるのかとハッとさせて、かつ想像とは違っても『やりたい』と言われるものを目指しています。それを探すのが一番難しい 。」

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東京の手土産として人気の菓子店がオープンした、カフェ業態のブランディング。ブランドロゴで使用されているお菓子のシンボルを、3本のラインは活かしたままシャープにリデザインし、モダンに表現した。

「新しい」ビジュアル制作のためには、アイデア面だけではなくフィジカルな難所も多い。「チリのアタカマ砂漠を空撮しよう」と提案したときは、数々の難所に出くわした。

実際に行ってみると、想像以上の僻地。標高が高すぎて酸素が薄く、毎日スタッフの誰かが体調を崩す。乗員数ギリギリの量の酸素ボンベを持ってセスナに乗り、カメラマンが「もう1周」を繰り返した時は「死を覚悟した」と笑う。

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特定車種のブランディングとビジュアルディレクションを長く担当した。既存のラグジュアリーの枠を超えた「真のグローバルプレミアムブランド」を表現をするため、非現実的なビジュアルを求めて海外ロケを決行。


制約があるからこそ面白い

クライアントワークの傍らで自主制作も続け、その中でより実験的なことを試している。

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自主制作「クラゲの生態」。本を作りたいと考えたものの、自身でコンテンツまでは作れない。「文字のようなもの」をデザインし、グラフィックと合わせて構成した。機械図面の複写で使用される「青焼き」を使用して印刷。予期せぬノイズが入ったり、経年劣化しやすいという特徴に魅力を感じた。

「デザインは大喜利みたいなもの。お題や制約がある中で、ボケるからこそ面白い。クライアントが求めているルールや枠がある中でニーズを見つけ、新しいものをつくっていきたいと考えています。」自主制作はクライアントワークに幅を持たせるためでもあるという。

次なるステージはデジタルの世界

長く続けたグラフィックデザインの領域から、デジタルデザインの領域へ。魅力に感じたのは、世界中の人が見られる場所で表現が出来ることだという。

「デジタルの領域でもブランディングに関わっていきたいと思っています。以前に携わった人材教育システムを設計するプロジェクトで、ブランディングの概念を取り込んだら反応もよく、まだまだ広げられる領域があると思いました。」

また音を使ったアプローチやインスタレーション、モビリティなどにも興味があるそう。

「少し前から自分のアートとして取り組んでいるものが、『脳』や『体』にアプローチするもので、そういうものが好きなんだと思います。サービスデザインのチームに入ったので、URBAN-Xのようにテクノロジーを通じて都市の未来を作るようなこともやりたい。具体的なアイデアはこれからだけれど、全部繋げられそうだなと考えています。」

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イベントには、デザイナーを中心にたくさんのメンバーが集まりました。領域の異なるデザインのお話に、インスピレーションを受けられたようです。普段はとても穏やかな荒井さんの意外な一面も見られました。

荒井さんと一緒に、これからのフォーデジットがどんなデザインをつくっていけるのか、とても楽しみです。

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