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コーチングから見た『宇宙よりも遠い場所』

 突然ですが、問題です。
 地球上にある宇宙よりも遠い場所とは、一体どこでしょう?
 答えは、南極です!
 
 ということで、アニメ『宇宙より遠い場所』の話をしていきたいと思います。
 できるだけ致命的なネタバレにならないように気をつけますが、少しのネタバレでも不快になられるお方は、閲覧注意でお願いします。
 
 


 
 この話は、身も蓋もないまとめ方をするならば、女子高生四人が南極に行く話です。
 しかし、これが本当に面白いんです。そして、コーチングの観点から見ても、中々参考になります。
 
 この物語の始まりは、主人公のキマリが自分を変える為に東京に旅に行こうとして、やっぱり辞めるところから始まります。
 「なんで行かなかったんだ?」と指摘した友人めぐっちゃんに対して、キマリはこう言いました。
 
(引用開始)
 
「いや〜雨だし、やっぱりズル休みはいけないかな〜というか。(中略) 飛行機落ちるかもしれないし、新幹線大爆発するかもしれないし……」
 
(引用終了)

 
 いや、めっちゃリアル!
 ある種、天才的な発想ですよね。
 旅から逃げ出す為に、飛行機が落ちるかもしれない、なんて言い出すのは。
 でも、私たちはキマリと同じです。
 実はこれが、世間のスタンダードなのです。
 だから、キマリを馬鹿にしてはいられませんし、他人事ではありません。
 
 キマリは旅に出ることで、現状の外側に飛び出そうとしました。しかし、それは失敗してしまいました。
 
 ですが、キマリは最終的に、南極に旅立ちます。
 
 南極に行くなんて、普通に生きていたらできません。
 明らかな現状の外です。
 東京に行くよりも、何百倍も難しいです。
 東京への行き方はスマホで調べれば分かりますが、南極への行き方なんて、調べても分からないのですから。
 
 何故、キマリはそのようなことができたのでしょうか?
 
 答えは、報瀬(しらせ)という同級生の存在です。
 報瀬には、南極に行く、という明確なGoalがありました。
 中学生時代に南極観測中の母親が亡くなってから、彼女は南極に行かなければ、と強い渇望が生まれました。
 
 何故、母が死ななければならなかったのか?
 何故、母は死の危険がある南極に、いつも旅立っていたのか?
 南極とは、それほどまでに魅力的な場所なのか?
 
 母の死に対する言葉にできない感情を清算させる為に、彼女は南極に行かなければなりませんでした。
 そんな彼女の存在は、キマリにとって、明らかに現状の外側だったのです。
 
 現状の外側に行く為に、一番手っ取り早い方法はなんでしょう?
 答えはシンプル。
 現状の外側の存在に引っ張り上げて貰うことです。
 
 実はセルフコーチングとは、コーチングよりもずっと難しいのです。
 何故なら、コーチングとは気づかれないことが肝要だからです。気づかれる時は、既に書き換えが終わった後でなければなりません。
 
 それを理解する為には、この一説が有効だと思います。
 
(引用開始)
 
 ブリーフシステムを書き換えるときにはこういった非言語コミュニケーションを使います。そうしないと相手の心に内省言語が起きないのです。

 その際、重要なのは相手の意識に上げないことです。言葉を使うのがダメな一番の理由は相手の意識に上がってしまうからです。意識に上るものはコントロール可能ですから、「眠くなりなさい」「いやです」で一巻の終わりなのです。
 苫米地英人「オーセンティック・コーチング」
 
(引用終了)

 
 アファメーションで「私はすごい!」と語りかけると、内省言語がすぐさま「いや、すごくないだろ」と否定しようとしてきます。
 セルフコーチングでは、その内省言語を意識に上げて、書き換えていかなければならないので、とても体力がいりますし、面倒です。
 
 しかし、力あるコーチのコーチングならば、気がつかない間に、そういったネガティブセルフトークを潰してくれます。
 だから、コーチングは有効なのです。
 
 報瀬は別に教育を受けたコーチではありませんが、出した結果は同じです。
 エフィカシーとは、伝染します。一人エフィカシーが高い人間がいると、集団のエフィカシーも高くなります。
 
 キマリは報瀬に、「南極に行くなんて無理だよ」と否定しますが、報瀬はその言葉に一切揺るぎません。
 南極に行く。
 それは報瀬にとっては既に決まったことです。
 すると、キマリは「あれ? 意外と南極に行けるのでは?」と思い始めるのです。
 つまり、キマリのコンフォートゾーンが、報瀬の側に移動しているのです。
 
 南極に行くことが当たり前で、南極に行けないことが苦痛でしょうがなくなります。
 故に、キマリは報瀬と共に、南極に行こうと決意ができるようになった訳です。
 
 それだけではありません。
 このアニメは、Goalを達成する過程を、こと細やかに描いてくれています。
 それが、めぐっちゃんというドリームキラーの存在です。
 
 ドリームキラーとは、その名の通り「夢を殺す」存在です。コーチング的に言うならば、コンフォートゾーンを引きずり下ろそうとする人です。
 
 キマリは、報瀬や他の仲間たちと行動する内に、コンフォートゾーンがどんどん移動していきます。
 南極に行くぞー。
 南極に行けるぞー。
 南極に行くのなんて当たり前だー。
 そのための知識と力を身に付けるぞー。
 という具合です。
 
 しかし、それはめぐっちゃんにとって、苦痛なのです。
 何故なら、めぐっちゃんのコンフォートゾーンにとって、キマリはそういう存在ではないからです。
 
 めぐっちゃんにとって、キマリとは東京に旅立とうとして、直前でビビって辞めちゃうような、そんな意思薄弱な友達なのです。
 そんなキマリがどんどん変わっていってしまうのだから、めぐっちゃんのコンフォートゾーンも移動せざるを得ません。
 
 それが嫌なのです。
 苦痛なのです。
 人間は基本的にコンフォートゾーンの外に出たくありませんし、別の場所のコンフォートゾーンに移動しようなんて思いません。
 基本、口だけです。
 
 もっとお金を稼げるようになりたいなぁ、と口にすることがその人のコンフォートゾーンであって、別に本当にお金を稼げるようになりたい訳ではないのです。
 コーチングの観点から見ると、そうなのです。
 
 だから、めぐっちゃんは、事あるごとに、キマリを否定します。さりげなく、あくまでさりげなくです。
 心配している風を装って、キマリをコンフォートゾーンを引きずり落とそうとします。
 いや、この言い方はあまり適切ではありませんでした。
 
 実際に、めぐっちゃんはキマリを心配しています。
 あのキマリが南極に行ける訳がありません。
 辞めさせなければ、と善意で忠告します。
 善意で、キマリを引き止めるのです。
 (まぁ、めぐっちゃんは善意と言うには、結構悪意のある行動も取っていますが、最初にめぐっちゃんを攻撃したのはキマリです)。
 
 実はドリームキラーとは、善意の存在なのです。
 あなたに近しい人間が、善意で、無意識に、コンフォートゾーンを引きずり落とそうとしてくるのです。
 だからこそ、厄介なのです。
 
 あなたがGoalを設定すると、あなたに近しい人は、ほぼ必ずドリームキラーになります。
 これは、構造上仕方のない部分でもあります。
 
 人間は自らのコンフォートゾーンを壊そうとする人間を、無意識に攻撃してしまうのです。
 そして、それを当人は善意だと思っています。
 だから、闇雲に反発しても、より攻撃されるだけです。
 
 なので、Goalやアファメーションは、信頼できるコーチ以外には、話してはいけないのです。
 たとえ家族や恋人、親友など、信頼できる人間が相手でも、Goalの内容を話してはいけません。
 
 キマリはそれを怠ったが故に、というより、それを知らなかったが為に、最も信頼できる親友を敵に回してしまいました。
 それは、どうしようもない悲劇です。
 しかし、それは、夢を追う者にとってはありふれた光景でもあります。
 

 *キマリの夢を邪魔してきたことを、告白するめぐっちゃん。痛みを伴う行動ですが、その行動こそがめぐっちゃんを浄化し、新たな場所へと移動させます。


 『宇宙より遠い場所』は、私が紹介した話以外にも、見所はたくさんです。
 しかし、私がそれを全て紹介すると、喜びが減ってしまうので、ここまでにしておきます。
 
 以上、コーチングの観点から解説する『宇宙より遠い場所』でした。
 それでは、また。

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