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銀河フェニックス物語 <番外編>  私の仕事 ショートショート

 私の仕事は銀河連邦軍の将軍補佐で、参謀を務めています。階級は少佐。私は世襲制のトライムス将軍家の嫡男で父の後を継ぎ次期将軍となることが決まっています。

 父は周囲の反対を押し切って高知能民族のインタレス人と結婚しました。

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 私はその母親の情報処理能力を受け継いでおり、一度目にしたものを忘れることはありません。子どもの頃から天才と呼ばれてきました。

 宇宙三世紀に渡って、我々ソラ系を中心とする天の川銀河と隣のアリオロン銀河は戦争状態にあります。現在は周縁地域におけるアリオロンからの攻撃への対処が連邦軍の主な活動で、被害を最小限に抑えることが将軍家の務めとなっています。

 この不毛な争いを終わらせたいというのが、父と私の最大の願いです。

 将軍家には直轄の部署があります。特命諜報部です。簡単に言えばスパイ組織。特に隠密班はその実動部隊で、法を犯してでも全世界から情報を集めてきます。時には私も現場に出ます。

 私の仕事の中で厄介なのは、この隠密班を管理することです。特別な予算枠が認められていますが、実績すら公開できない汚れ仕事です。面倒な後片付けに追われることになります。

 そして、敵味方にかかわらず、生き馬の目を抜くこの世界で生きる強者たちと渡り合わなければなりません。

 その一人が、子どもの頃からよく知っているレイター・フェニックス。
 隠密班の彼が上げてくる伝票のチェックは念入りに行います。偽装工作が得意で巧妙なトラップを仕掛けてくるからです。

逆振り向き後ろ目にやり逆

 レイターが諜報部員として優秀で、それ相応の働きをしていることは認めますが、とにかく悪知恵が働くのです。二重取りや経費水増し、彼の伝票の嘘を見抜くことはおそらく私しかできません。誤って父が決済しないように気を付けています。不正な金銭の取得を許すわけにはいきません。軍の資金は税金で賄われているのですから。

 とはいえ、こんなレイターの伝票にかまっている暇があったら、和平プロセスに入るためのシナリオを作成する時間に充てるべきなのです。私の崇高な仕事を些末な事務処理で邪魔しないでほしい。
「そうだよ、あんた、忙しいんだろ。俺の伝票なんてスルーしろよ」
 とレイターが囁きますが、ここで追及をやめてはあいつの思うつぼです。

 実はレイターの伝票を無視できないのには理由があります。
 あいつには言っていませんが彼の伝票の不正を見つけると、私はこの上なく幸せな気持ちになれるのです。難問パズルが解けた時の快感で報酬系が刺激され、やめることができない、という中毒状態になっているのです。

 世界平和に関わる大きな任務と、小さな雑務。これが将軍家である私の仕事です。    (おしまい)

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」