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【衰退社会の幸福論=講義を通して伝えたいもう一つのこと=】

2018年頃から、京都芸術大学の講師を勤めさせい頂いた事がきっかけで”アート思考”を軸に自らの新規事業の経験から企業にいかに創造性を実装するかをテーマに講師を続けてきました。4年かけて大手企業の企業研修や新規事業の壁打ち、ファシリテーターのご相談やお仕事をいただける様になりました。そして、最終的にアート思考×デザイン思考×ロジカル思考の3つを回す”クリエイティブ・マネジメント”という思考に辿り着きました。それは単にビジネスのフレームワークという形だけでなく、「衰退社会の幸福論」を軸にしたWEB3の時代に向けた生き方の提案でもあります。

「これはマズいことになっている、、、」そう気がついたのは2008年に日本の様々なデータを集めて可視化する「地域経済分析システム(RESAS)」の開発に携わった時のことでした。

日本の人口データを見ると、ほとんどの地域が減少していました。100年後には人口が4分の1になる、、
単純に人口が減るだけではありません。
日本人一人当たりのGDPの推移を見てみましょう。2000年、日本の一人当たりのGDPは世界で2位でした。2010年は18位、昨年は28位でした、今年は35位まで下がりました。さらに追い討ちをかけるのは生産年齢人口の減少です。これはどう考えても経済成長の見込みはありません。

資本主義の限界が囁かれ始め、経済成長は鈍化し、景気が良くなる要素は全く見えてきません。今はまだ高度成長の名残りの成長幻想に生きていられますが、2025年頃には日本国民が貧しさを感じるくらいになるでしょう。さらに環境は経済発展の犠牲となり企業はSDGs対応を迫られました。
一方で富の集中と格差が広がり、豊かさを目指したはずが幸福度は低いまま。資本主義は止まらないし、資本主義を否定するだけでは意味がない事で、一人一人が、どう肯定的に捉えて内発的に変化・適応していくかを考える必要があります。つまり、衰退社会の幸福と向き合う時代が来ているということだと思います。

利己的な利益と利他的な共有・分配のどちらかを選ぶという事ではなく「もうひとつの快楽主義(Alternative Hedonism)」を見つける事だとロンドン・メトロポリタン大学の名誉教授哲学者のケイト ソパーは言います。”もうひとつ”とは、二項対立するどちらか、ここでいう資本主義か?脱資本主義か?や中央集権か?自立分散か?というトレードオフではなく、オルタナティブな回答を必要としている様に思えます。そして、快楽主義というのは、何かを我慢したり、戦ったり否定する様な抑制、禁欲、倫理的責任感ではなく、もっとボジティブに価値を創造しよう!という事と解釈しています。ある意味で『脱成長』の著者セルジュ・ラトゥーシュの「節度ある豊かさ」をさらにポジティブにした様な感じではないでしょうか。

経済合理性は簡潔に言えば「儲かるからする」「儲からないからしない」という原理です。資本主義つまり、経済成長の基本ですが、一方でアートは「創りたいから作る」「歌いたいから歌う」「儲かるか、儲からないか」とは真逆とも言うべき内発的な動機に快楽を求める行為と言ってもいいでしょう。アーティストのマインドは自分軸、つまり人と比較しない内発的な動機です。経済合理性が生み出した中毒性のある消費主義の奴隷にならない美意識と創造性をもって、否定ではなく快楽的に未来を創造すること。与えられる幸福ではなく、オルタナティブな正解を自律的に創造し、新しい幸福の価値観を生み出していく姿勢がこれから求められている様に感じます。この生き方や価値観はアーティストが持ち合わせているものではないでしょうか。

 これが一人一人に与えられたチャレンジであり、チャンスでもあります。結果、そこに気付きやイノベーションが起きるのだと思います。内発的で本質的な「問い」から、新たな価値創造をする。これは創業者や起業家の出発点でもあります。モノが飽和して、正解が見えない世の中になった今、経済合理性からの発想は勝つか負けるかという競争と抑制、禁欲、倫理的責任感といった息苦しい、貧しい思考になってしまいがちです。アート思考の存在価値はアート作品自体にあるのではなく、経済合理性を超えた内発的な動機からオルタナティブな回答を生み出す創造性のプロセスだと私は考えています。

 ちょうど1年ほど前にFacebookがmetaに社名変更し、ビープルのNFT作品が75億円で落札され、2021年から22年にかけてWEB3という概念が知られる様になりました。ところが1年後、巨額の投資をしたmetaの株価は暴落、たった1年で時価総額76兆円が消失。また、ソフトバンク・グループや大手ベンチャーキャピタル(セコイ ア・キャピタル)などから出資を受けた暗号資産交換事業者FTX トレーディングが経営破綻し、暗号資産全体が急落。2021年8月には流通総額が約3650億円を達成し、前月比で10倍超の伸びを見せたNFTのマーケットプレイスOpenSeaの大暴落が訪れます。

OpneSeaの取引額推移

NFTの機能がアート=唯一性や投機との親和性も高かったことからか、ある意味でアートが踏み台にされ、それに翻弄された投資家や、本質を欠いた作品の価値が横行しました。その結果、NFTのマーケットプレイスOpenseaの流通は激減し、投機としてのアートの限界を見ることになります。

だからこそ、これから本質が浮き彫りになる時代が来る。そう信じています。少なくとも、それに気がついている人は動き出しています。本質を知らず投機目的の人は、離れていきます。
 WEB3、特にDAO(分散型自律組織)は信用と信頼のコミュニティーだからこそ成立するものです。邪な考えや、悪意のあるものが利用しては成立しないシステムです。そういった意味でもバブル崩壊はフィルターになっていたと思います。
 そして、アートとテクノロジーとビジネスを融合させた視点がこれからもっと重要になってくるでしょう。投機としてのアートではなく、物事の本質を紐解き新しい繋がりに気づいて創造する力がもっと必要になります。 人間の創造力は何の資源も必要なく湧き出る無尽蔵なものです。経済がどんなに衰退しても、人の営みが続く限り創造力は絶える事がありません。生産性の時代から創造性の時代へマインドシフトする事が衰退社会で貧しくならない秘訣だと思っています。


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shiba@アート思考
新規事業開発専門のフリーエージェント。トヨタ、ソフトバンク、内閣府のRESASのPM。 「衰退社会の幸福論」が本質的なテーマ。 京都芸術大学『縄文からAIまでの芸術進化論』・熊本大学『アートによる地方創生』非常勤講師。逗子アートフェスのプロデュース。トランペッター、DJ。

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