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『ホーランジア』 Prologue


戦争は良くない。そんなこと昔から誰だって知っている。私も。
だけど平和は退屈で、命がけの恋ってどんなだろうとか、戦争映画を観る度に思っていた。特攻隊の男子と命がけで恋してみたいなんて、正直、憧れていた。

そう、憧れてい『た』んだ。

昭和19年の4月、日本のほぼ真南にあるニューギニアという島は、戦場だった。そこで私が見たのは、大好きな、泣ける戦争映画の『戦って散る美しさ』なんかじゃなくって、泥にまみれてただ森の中を歩くだけの……死の行進としか言いようがないものだった。

勝機がまたやってくると信じて、生きて味方と会うために、隠れて、隠れて、隠れて歩いて。私たちは、食べられそうなものなら何でも食べた。雑草でも、虫でも、何でも。

敵と戦うわけでもないのに、歩いているだけなのに、仲間がどんどん死んでいった。
ある人は、お腹を壊しただけで死んだ。
またある人は、マラリアで。
そしてまたある人は増水した河の濁流に飲まれて消えた。

戦争は、美しくなんかなかった。
戦争は、かっこよくなんかもなかった。
ただ、暑くて、寒くて、臭くて、痛くて、お腹がすいて、疲れて、辛くて、悔しくて、悲しくなるだけだった。

そして戦争は。
私の初恋の人さえも、容赦なく連れ去った――


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