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嘘のような本当の話 財布を良く拾うという呪い

私は昔から奇妙な出来事によく巻き込まれる。
これは私を知る人物にはよく知られたことで、実際にその奇妙な出来事やトラブルに巻き込まれた人間もたくさんいる。

「Hさん、本当にドラマのような人生ですよね」

と皮肉めいた発言をされることにはもう慣れた。
一番、その特性を知っているのはやはり妻だろうか。何度もその光景を目にしていることから、妻もすでに慣れっこだ。

奇妙な出来事に遭遇することは、大きな経験値にもなる。並大抵のことでは驚かなくなり、とっさの判断や対応力にはかなり影響する。

数え上げればきりがないが、ぱっと思いつく嘘のような本当の話をいくつか綴ろうと思う。

改めて言うが嘘のような本当の話だ。創作でもなんでもなく、事実としてこのような奇妙な出来事に巻き込まれた経験をいくつか紹介したい。

以前に書いた嘘のような本当の話はこちら。

財布を拾うということ

私は昔から恐ろしい頻度で財布を拾う。

羨ましい!と思った人は勘違いしないでいただきたい。
私は誓って言うがネコババはしたことが無い。すべて警察に届けている。

「財布を拾う」という頻度の平均とはいったいどのくらいなのだろう。
そんな統計を出しても何の意味も無いので、データは非常に少ないが、ネットを見てみると30歳になるまでに90%以上の人間が財布を落とすとのこと。

私も生涯、一度だけ財布を落としたことがあるので、現在41歳。統計通りという事か。

とはいえ、私の財布を拾う頻度は確実に多いと思う。平均して年1回は拾う。年に数回拾った経験もあるし、合計したらいったい何度財布を拾ったのだろう。もはや回数は分からないが年齢分くらいは拾っているのではないかと思う。

何の自慢にも何の特技にもならない。そしてネコババをしない限りは、実は損しかない。

財布を拾って警察に届けた経験がある人ならわかると思うが、とにかく時間がかかる。

まず交番には大体人がいないことが多い。
「パトロール中です」のような立札があり、交番の中には誰もいないことが大半だ。いたとしても内線で電話をして、奥からのそっと警察官が登場する。

不在だった場合は最悪だ。帰りを待たなければならない。正直、何度か交番の机の上に財布を置いて帰ったこともあるのだが、それはそれで後味が悪いものだ。できれば最後まで見届けたい気持ちはある。

そして警察官が登場したとしても渡すだけで帰れるわけではない。調書を書き終えるまで帰れないのだ。

そして刑事ドラマでよく見る指紋がつかないように付ける白くて薄い手袋をはめて慎重な面持ちで中身を取り出す。早くしてほしいのに。意味あるのかそれは。

財布の中身を一緒に確認し、住所や名前などの個人情報を聞かれ、持ち主が見つかった場合の権利を放棄するしないなどの話になる。これがとにかく長い。

もう何度もしたことのあるルーティンだ。

「権利もいらないので帰ってもよいですか?」

と言っても簡単には帰してくれない。
なので、先に予定があるような状況で財布を見つけてしまうと非常に憂鬱な気持ちになる。予定の時間に遅れてしまう事が確定するからだ。

とはいえ、見て見ぬふりをすることもできないし、人様の財布をしばらく持ち歩いて後日予定のない日に届けに行く、というのもなんだか気持ち悪い。

財布は誰にとっても大切なもの。金銭とかそれ以上にいろんな思念が籠められているような気がする。なので、拾ったものをなんだか持ち歩きたくはない。

財布の中身も様々だ。
これまた誤解のないようにしておきたいが、財布の中身をのぞき込んで楽しむような趣味はない。そんな趣味はなくとも警察に届けたらレシートの1枚1枚まで一緒に確認することになるので、必然的にすべての中身を把握することになるのだ。

お金はもちろん、クレジットカードや身分証明書の類。そして様々な会員証、ポイントカード。その他にも言えないようなものも入っていたり、暗証番号の類をたくさん記入しているメモや、子供の写真、キャバクラの名刺、本当に多種多様なものが入っている。

財布を見ると会ったこともない人のライフスタイルが筒抜けになる。免許証も大体入っているので顔までわかってしまう。

札束がパンパンに入ってて、キャバクラの名刺がたくさんあり、、みたいなギラギラした中身はクロコの長財布だったりするし、脂ぎったイケおじ経営者のようなイメージ。暗証番号のメモがたくさん入ってて、銀行のカードがたくさん入ってるしわしわの革財布は資産家のおじいちゃんのお財布なのかなと予想できたりする。

意外と皆さん現金を持ち歩いているもので、私は現金を持ち歩かないタイプなので驚くことが多いのだが、10万円前後入っている財布を拾う事も少なくはない。

警察官とともに中身を確認し終えると、持ち主が見つかった場合の権利の話になる。ここも曲者だ。

やはり時間を取った分、何かしらの謝礼は欲しいなと思ってしまうのは事実だ。特にたくさんの現金が入っていたりすると猶更思うのは素直な気持ちとしてある。

だがこれで嫌な思いはたくさんしてきた。

持ち主が現れた場合には、拾ったものの5%~20%の報労金を請求できる権利がある。大体1割が相場と言われるが民法で定められているらしい。
そして、御礼の連絡が無かった場合も個人情報の開示を請求する権利があるので、

「謝礼をよこせ!」

という連絡は出来なくはないわけだ。

だが、こういうのって人の倫理観や道徳観でやるもので法的な強制力を行使するものではないと思う。思いやりと感謝の気持ちがあれば謝礼に関しては無くてもよいし、ちょっと期待する部分は無くはないが、御礼の電話1本あれば大満足だ。

謝礼の形は様々だ。大半は持ち主から電話かお手紙をいただく。そして謝礼の品や金銭(財布の中身の1割程度)が書留なりなんなりで送られてくる。律儀な人は自宅まで訪ねてくる場合もある。

それはそれで恐縮してしまう。別に感謝の意を表してくれるだけで十分なのだ。

一方で何の連絡もしない人もいる。

明らかに免許証や現金などが入っている財布は個人情報が特定できてかつ、重要なものが入っているので警察が持ち主へ連絡するし、持ち主自身が遺失届を出しているため、必ず持ち主の手には戻るわけだ。

財布の中身に関しては先述の通り、警察官の立会いの下、私も確認するわけで、これは持ち主が必ず見つかるパターンだなというのは分かるという事だ。

にもかかわらず、連絡すらないこともたくさんある。
だが、それを警察に問い合わせて個人情報を請求し、

「謝礼をよこせ」

というのは完全に感謝の強要だ。
する人もいるのだろうし、法的には請求権があるので問題はないのだが、少なくとも私はしない。できない。

そして、連絡がこないのは比率としてまあまあ高い。

これもまた先述の通りだが、財布の中身を見ることによって持ち主の人となりや、ライフスタイルが何となくわかるから、なおさら腹が立つ。

例えば現金パンパン、キャバクラ名刺パンパンのクロコの財布。免許証は色気むんむんのイケおじで、会社を経営してそうなギラギラ感を備えた中年男性が連絡すらなかったら、いい大人なんだから御礼の連絡ぐらいはしろよと思ってしまう。

こんなネチネチしたことは言いたくはないのだが、あまりに数多く拾う事と、時間を多く消費するという事は分かってほしい。

これが年1回あるのだ。そりゃ財布を拾うと憂鬱な気持ちにもなる。

最近拾った財布は娘の勉強材料に

最近財布を拾ったのは数か月前。小学校1年生の娘と公園で遊んでいたら、財布を見つけてしまった。

娘に財布を拾ったことを伝え、一緒に中身を見るとたくさんのカード類と免許証などの身分証明書、そして少額ではあるが現金も入っていた。

私は娘にとって道徳や社会のシステムの良い勉強にもなるかなと思い、体験学習のつもりで色々と娘に聞いてみた。

「この財布を落とした人はどう思ってるかな」
「そう。きっと困ってるよね」
「財布を拾ったら、どうしたらいいか知ってる?」
「交番か。良く知ってるな。じゃあこの辺に交番はどこにあるかは知ってるの?」

等と、いろいろと話しながら、一緒に交番に行き財布を届けた。
娘は交番を出て私に、

「お父ちゃん。財布が届いて喜んでくれたらいいね」

と言ってくれた。
これは財布を拾ってよかったと初めて思ったかもしれない。
娘にとって良い勉強になったと思う。

だが、その財布の持ち主からは御礼の連絡は無かった。

娘には御礼の連絡や謝礼があったら、

「良いことをしたら良いことが返ってくるんだぞ」

と教えてやりたかったが、それは出来ずに終わった。
やっぱり腹が立つ。


次回は財布を拾ったエピソードで一番大変だったものを綴ろうかと思う。


続く

財布を拾って大変だったエピソードはこちら。



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