【ダンジョン潜り】 (2-13) ~エスの指板~
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私はすこし興味が湧いたので、それは呪文書か何かかとエレクトラに尋ねた。あるいは、これが辞典かも知れないとも思った。
知識と言葉の神エスの僕である司書たちは、天と地と海のあらゆる事物の知識を辞典と呼ばれる書にまとめ、彼らの神殿である各地の図書館では日々その編纂を続けていると聞く。
しかし、彼女の手にしていたものはそのどちらでもなかった。
「これはエスの指板と呼ばれるものです。」
エレクトラがエスの指板をこちらに向けた。それは本のような革表紙に覆われているものの、中身は薄く硬質の石板らしきものであった。
黒灰色のその小さな石板には表面を埋めつくす様に字が彫り込まれており、その字は規則正しくびっしりと並んでいた。字は、エスの神殿文字である。
エスの神殿文字は、エスの導きで造られたと伝えられる文字である。
種族を問わずあらゆる言語の音を表現することができ、視認性が高く木や石に彫り込むのに適しているため、神殿や宮廷の装飾、店の看板、軍旗に至るまで各地で見ることができる。
エレクトラによれば、エスの指板は司書がいわゆる「術」を行使する際に使う道具だという。ただし彼らはそれを「術」とは呼ばず「理道」と表現する。
「皆様のつかう術具とは、やや違うものなのです。理道はマナによる天界とのつながりを必要としません。」
エレクトラは言葉を慎重に絞り出すようにしてつづけた。
「ご説明するのは、すこし難しいのですが......。」
そう言いながらも彼女は、私が司書の道具に興味を示したことに多少なりとも嬉しさを感じているのかやや早口になった。
「これはご覧の通りすべての神殿文字の羅列です。そして私たちが理道の設置につかうのは創造の古語です。創造の古語で、動かす理に対する......いわば懇願、むしろ命令のようなものでしょうか、それを話しかけるかのように、神殿文字を指でなぞっていきます。」
彼女は指板の上ですばやく指を動かして見せた。
それで具体的にどのような「術」を行使できるのか尋ねると、あらゆる事ができる、との答えであった。
「ええと、例えばこの大部屋のまわりについて調べる、として......。」
エレクトラは指板を繰りはじめた。
「この場所の位置について、"傾く力" の有無について、そして範囲について、古語でなぞっていきます。もちろん私たちの存在は除外するようにします、さらに回数と......。」
エレクトラのほとんど独り言のようなつぶやきの内容は半分も理解できなかったが、しばらくして彼女の表情がさっと曇ったのはすぐに分かった。
「大変です。周りが......」
エレクトラの上げた か細い声は雷のようなカリスの怒号にかき消された。
「全員よそ見をするな!!!」
顔を上げ、怒号のほうを見れば、カリスがまさに短刀で太い綱のようなものを力まかせに切りつけているところであった。
綱は濃緑色で、ねじくれ、人の腕ほどの大きさの切り落とされた先端がぼとりと床に落ちた。
「ひゃッ!」
状況を飲み込もうした刹那、エレクトラの小さな悲鳴があり、私は背中に突如這う重みを感じた。
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ガイオ 戦士 ○
リドレイ プリースト ○
ぼるぞい 魔法戦士 ○
カリス レンジャー ○
テレトハ メイジ ○
エレクトラ 司書 ○
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金くれ