尾行 【短編小説】
瑠衣は長い髪をなびかせながら、小走りをしている。
すばやく電柱の陰に隠れ、監視を続けた。
数メートル先には、男の子がいる。
気付かれてはいけない。
契約があり、探偵としてのプライドもある。
ターゲットが後ろを振り向き、わたしに近づいてきた。
「おばさん、何でボクを付けまわしてるの?」
バ、バレてる?
はるきは、目の前まで来ると続ける。
「お母さんに頼まれたの? 大丈夫だよ。ちゃんと買い物するって」
ニコニコして無邪気にしているさまは、瑠衣の心を大いに搔き乱した。
「べ、別に付けてなんていないわ。偶然、後ろを歩いていただけよ」
「家からすぐで、二十分も偶然が続くかな~」
はるきは首を傾げるが、尾行は確信している。
理由を知りたいだけなのだ。
「初めてのおつかいよね?」
首を振りながら、「何回もしてるよ」
目がパッと開く。
依頼内容は、「安全におつかいできるか、監視してほしい」
てっきり初めてだと思っていたけど、そうではないの?
なぜ、お金を払ってまで依頼をするのだろう。
まぁ、いい。任務は果たすわ。
「はるきくん、おばさんじゃくて、お姉さんよ。今度、言い間違えたら、ビンタするよ」
「わ、わかったよ。お姉さん」
「まだまだね、そこはきれいでかわいいお姉さんと言えないの?」
「うへっ、まいったな」
「何がまいったの?」
「お姉さんがきれい過ぎるからだよ」
「よろしい」
尾行がバレてるじゃないか。それでもプロか?! ド素人めっ。
作戦Bに切り替えか。あの女はこのあと、どうするか見物だな。
依頼は、おつかいを妨害すること。
簡単なこった。真のプロの俺からしたらな。
やっぱり、尾行がバレてるじゃない。
はるきは優秀だからしょうがないけど。
あとは、妨害屋がどうするか見物ね。
あの瑠衣という女め。仕事を失敗させて、赤っ恥をかかせてやるんだから。
依頼を受けたが、初めからおかしいと思っていたんだ。
私の探偵事務所の手伝いを始めたばかりの瑠衣を指定したこと。
はるき君が、一人でおつかいをしているのは何度か見掛けたことがある。
いまさら安全におつかいを依頼なんて、何か裏があるはずだ。
いざとなったら、私が出て行って何事もなくおつかいをさせてみせる。
あー、瑠衣のやつ、尾行に気付かれたか。まだまだ甘いわ。
子供の尾行すら、まともにできないなんて、
プロの私からしたら、十年早いぞ。
家内のやつ、完全に勘違いしている。
思い込みが激しいんだよな。
探偵事務所の瑠衣さんと不倫してるって、何考えてんだか。
今日は、会社で同僚がコロナ陽性とわかり、
仕事は緊急で昼までとなったから、手土産と驚きを持って、
帰宅しようと思ったら、途中で家内が見かけた。
声をかけようとしたが様子が変だ。
遠くにはるきが居て、そのあとに瑠衣さん、怪しい男が尾行していて、
家内、探偵事務所の社長と続いている。
この連なりは何なのだ。気になって仕方がない。
私もそのあと尾行をしよう。
私が一番、尾行がうまいのではないか。
まんざらでもない。転職を考えるか。
怪しすぎる。子供一人に大人五人がそれぞれ尾行か。
何が起こるんだ。見当も付かない。
ここは署に連絡して、応援要請だな。
一網打尽にして、職務質問をしてやるぞ。
それまでに危険なことが起こらなければ、良いが。
とりあえず、今は一人で最後尾で尾行を続けるまでだ。
(終)
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