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流れてくる美しいメロディ(短編小説)

ある日、静かな町の喫茶店で働く若い女性、瑞希 みずきは、悲しみに包まれた心を抱えていました。彼女は、ぼんやりと浮かぶ過去を思い出しながら、ときおり、コーヒーカップを手に取り、深くため息をついていました。

喫茶店には有線放送があり、彼女はそこから流れる音楽を聴いています。昼下がりになると、お客様がいない時間帯になり、流れてくる音楽をじっくり楽しむことがことがあるのです。

美しいメロディーがしばしば聞こえてきます。その音色は彼女の心を引き寄せるようで、何か特別な思い出を呼び起こすような気がしました。

瑞希は口ずさみながら、心の中で過去の出来事が思い浮かびます。彼女はかつて深い愛を育んだ恋人との別れた過去があります。

元彼との思い出は瑞希の心を締め付けます。共に過ごした時間、笑顔、涙、そして喧嘩や別れの瞬間。全てが心に焼き付いていました。

瑞希は喫茶店での仕事を通じて、多くの人々と接する機会がありました。お客様たちの物語や喜び、悲しみを聞くことで、彼女は自分自身の感情にも共感し、心の中で思いを馳せます。

ある日、喫茶店にひとりの男性が訪れました。彼の姿勢や表情、そして歩き方が元恋人に似たものを感じさせます。その彼を見つめながら、彼女の心にある何かが揺れ動きます。

思い出が重なっていき、元恋人と同じ人物ではないかと思いました。でも、明らかに別人です。冷静になったとき、容姿など明らかに違うのですから。

瑞希は心の中で思いました。いつまで過去のことを引きずっているのかしら。どうしても元恋人のことが忘れられません。過去の思い出に立ち向かう勇気を持つべきなのかな。
「ごめん、俺が悪かった。もう一度やり直したい」
元恋人は、そんなことを言ってくるかも。
いいえ、私のことは、もう忘れたいと思っているかもしれない。
彼女は喫茶店のカウンターに手を置き、答えの出ない未来に頭の中は、巡り回っていました。

カウンター席に座った男性は、彼女に声を掛けました。
「この歌、良いよね。俺、大好きなんだ」
微笑みながら言いました。
瑞希は、有線放送から流れてくる音楽に耳を傾けました。

まさしく、彼女の心情そのものでした。
いつのまにか瞳から涙が溢れています。

「そうですね。私も好きですよ」
やっとの思いで、そう答えました。

「うん。良いよな。俺、最近、彼女と別れたんだ。だからさぁ、よけいにこの歌に刺さるかもしれない」
喫茶店のマスターは、今の時間、暇とあってか留守にしています。先ほどの男性とふたりきりです。

「……私もそうなんです。最近、彼氏と別れました」
「……そっか。お互い、センチメンタルだな」

男性と瑞希は互いの別れの痛みを分かち合いました。
ふたりの心は、喫茶店の静かな空間と音楽に包まれながら、少しずつ癒されていくようでした。

男性は瑞希を見つめながら言いました。
「僕は、あの人との思い出は忘れられないんだ。どうしても心の中に残ってしまう」

瑞希は同意しながら微笑みました。
「私も同じです。でも、過去の思い出に縛られていても、新しい出会いや幸せを見逃してしまいますよね」
「確かにそうだけど、どうやって過去を乗り越えればいいんだろう?」

瑞希は考え込みながら、少し時間を置きました。
「過去を乗り越えるのは簡単ではないです。でも、一歩ずつ前に進んでいくことが大切なのかな。新しいことにチャレンジしたり、自分自身を大事にすることで、少しずつ過去から解き放たれるのかもしれませんませんね」
「ありがとう。君の言葉が勇気をくれるよ。新しい道を歩んでみようと思う」

瑞希は優しい笑顔で男性に応えました。
「きっと大丈夫ですよ。新たな出会いや経験が幸せをもたらすかもしれませんよ。私も頑張ります」

そのあと、ふたりはお互いの話を聞き合い、励まし合いながら時間を過ごしました。喫茶店の中には温かな雰囲気が広がり、過去の悲しみが少しずつ薄れていくようでした。

ふたりは、自分自身の未来に向かって、前に進む決意を固めました。
喫茶店の中には、再び美しいメロディーが流れ出し、新たな希望と勇気が生まれていくのでした。

(終)


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