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古き良き(とは限らない)クリスマス・デコレーションLPデザイン その2

◎クリスマス・ジオラマ:立体による構成(承前)

中には費用の嵩みそうな立体物の写真によるフロント・カヴァーがあるかもしれない、と思ったのだが、どうもそういうものは見当たらず、やっぱり、このパターンはロウ・バジェットだという結論に達した。ということで、そういうのを三つつづけて。





以上、ジャッキー・グリースン、ジェシー・クロウフォード、そしてマントヴァーニで御座った。まあ、こういう安易なデザイン・コンセプトでもクリスマス気分は感じられるというのが、クリスマスの魔法かもしれない。




これもロウ・バジェットなのだが、シュトレンを食いたい気分にさせる絵柄である(そこかよ!)。被写界深度を浅くして、背景のもうひとつのシュトレンをぼかし、いくぶんスケール感を出したあたり、写真師としては「いちおう仕事してみましたぜ、クライアント様」という心であろう。



これも安上がりだなあ、と思うが、少年が可愛らしいので、まあいいか、である。



こちらはあまり可愛くないし、デザインも投げやり。ヨーロッパの絵画や彫刻の天使をよく見ると、どうも可愛げのない不細工なのが多く、あれはなぜだろうといつも不思議に思っている。どういう文化的伝統なのやら。

◎グレムリンの田舎町とフィル・スペクターのクリスマス


昔、ジョー・ダンテの『グレムリン』という映画がありましてな。いや、すごい映画というわけではないのだ。でも、長いアヴァン・タイトル・シークェンス(怪しげな裏町の怪しげな中国人のオヤジが経営する怪しげな店で怪しげな小動物をお父さんが買い、飼い方に関する注意を受ける)が終わると、画面暗転。

その黒味の中で、オーケストラがEフラット・メイジャーを全音符で一発、その持続音を縫って、アップライト・ベースが、Bb-Eb-G-Bb-G-Eb-Bbと、2分3連を使いながらコードの構成音をシンプルに上下するラインを弾く、またオーケストラのコード、こんどはGmを1小節(ここらで、あっ、スペクターだ、とわたしは気づいた)。


ジョー・ダンテ『グレムリン』タイトル・シークェンス。広場は全体がオープン・セット、遠景はマット・ペインティングだろう。


画面が明るくなり、雪に覆われた田舎町の光景があらわれ、Abに変わってこれが1小節、そしてEbの五度であるBb(つまり、これで循環コードが一巡し、「終止」する)、ただしこれは2小節で、その間、ドラム(もちろんハル・ブレイン)はスネアで4部3連を叩きつづけ、キーのEbに戻るや、バックグラウンドの女性コーラスが「♪クリスマース」と唄い、ダーリーン・ラヴが「♪スノウズ・カミン・ダウン」と叫ぶ――。


同じく『グレムリン』タイトル・シークェンス。広場のクリスマス・トゥリーと雪だるまと子供たち。向こうには「クリスマス・トゥリー販売中」の横断幕。


フィル・スペクターのクリスマス・アルバムに収められた唯一のオリジナル曲、"Christmas (Baby Please Come Home"が流れるあのシークェンスは感動した。鳥肌が立った。ガランとした、いまはなき横浜ピカデリーの客席で、ダーリーンと一緒に唄いそうになった。


A Christmas Gift For You from Phil Spector, 1963 (remastered CD front cover)


いや、クリスマスLPのデザインの話だ。あの『グレムリン』の田舎町の雪景色、あれがたぶん、アメリカ人の最大公約数的「懐かしいホワイト・クリスマス」なのだろう。だから、クリスマスLPのデザインでは、田舎の雪景色は真ん中も真ん中、ど真ん中の100マイルの直球、ストライクなのだ。

◎青い空、白い雪、故郷は遠くにありて

そういう田舎町、村の雪景色をあしらったクリスマス・アルバムは、写真、絵、とりまぜてたくさんある。



故郷の雪景色、トップ・バッターはフレッド・ウエアリングのコーラス・アルバム。白い教会を中心にした集落で、雪国らしく、屋根屋根の傾斜がきつい。しかし、アメリカには、こういう「山懐にいだかれて」みたいな村がありそうには思えないのだが……。木材の産地? あるいはどこかヨーロッパで撮ったのかもしれない。



おつぎはビング・クロスビー、トニー・ベネット、ロバート・グーレなどのオムニバス盤。これまた「山懐にいだかれた」白い教会を囲む家々。夕方なのか早朝なのか(あるいは写真師が注文したのか!)窓々に灯がともっているのがクリスマス気分を高める。教会もそうだし、納屋のような建物の造りも、フレッド・ウエアリング盤に似ていて、そこらじゅうにこういうところがあるのかなあ、と考え込んでしまう。



もうひとつ同傾向の写真もの。ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、フレッド・ウエアリングの三者乗合盤だが、ありものを集めたものだろう。こちらも窓々に灯りが入っているが、教会の鐘楼のライトアップも含めて、描いたものではないかと感じる。ここに灯りがあるかないかで、印象がまったく変わる。それにしても、似たような集落があるものだなあ、となんだか眉に唾をつけたくなる。やはり林業の町ぐらいしか、わたしには考えつかない。



こんどは絵。絵に描いても、やっぱり似たような教会を中心にした似たような集落になるということは、こういう場所というのは、わたしが知らないだけで、わりによくある、ということなのだろう(←まだ納得していない)。



絵柄、タッチは好みで、綺麗な仕上がりの絵だが、クリスマス・アルバムのボックス・セットのパッケージとしては、ちょっと寂しいような気もする。まあ、リーダーズ・ダイジェストのものは店頭に並べられるわけではなく、サブスクライバーに自動的に届けられるものだろうから、地味でいいのか。



これは子供の絵のような気がする。いや、子供のタッチで大人が描いた、かな。あなたがイメージする「田舎の雪景色」を描いてみなさい、といわれたら、こうなりました、という雰囲気。画面奥、遠くに小さく教会を配し、その手前の大きめの建物は学校か、川は凍結して橋からこちらは臨時のスケート場になり、子供たちが遊んでいる。雪国らしく橋は屋根付きになっているのもいい。手前には樅の木を運んでいる人もいて、クリスマスが近いことがうかがえる。



これも同系統の田舎の雪景色。アメリカにも谷内六郎がいるのね、と思ったわ。「週刊新潮」の表紙に使えるよ、って、若い人には何のことかさっぱりわからないだろうけど、大人には通じるざんしょう?



これはもう「全部乗っけてみました」のクリスマス五目寿司、なにから箸をつければいいのやら、である。左手、近すぎてわからないぐらいのクロースアップで、時計(4時37分)のある教会の鐘楼が描かれているあたり、プロの技。

広場のトゥリーの前ではキャロリングする人たち、雪玉をぶつけ合っている男の子と女の子、橇で遊ぶ子供たちとそれを追う犬、道行く人々はみな色鮮やかなプレゼントを抱えている(♪Pretty paper, Pretty ribbons, wrap your presentとロイ・オービソンの声が聞こえてきそうだ)。

そして、♪Dashin' through the snow, in a one-horse open-sleighとジングル・ベルズのファースト・ラインにあるように、一頭立て無蓋馬車が走り、夕闇迫る時刻、家々にも街燈にも灯が入っている。これがたぶん平均的なアメリカ人の「あらまほしき故郷のクリスマス」の光景なのだろう。

◎野生馬は空飛ぶトナカイの夢を見るか?

Jingle Bellsが疾駆する馬の描写ではじまっているように、故郷のクリスマスの風景には馬と馬車は不可欠のアイコンらしく、馬をあしらったクリスマス・アルバムもたくさんある。



雪道を駆ける白馬と栗毛の二頭立て馬橇。クーリエ&アイヴズというのは、19世紀から20世紀はじめまで活動していた版画制作工房だそうな。調べると、譜面もデザインしていたようだが、これはLP、のちに、クーリエ&アイヴズのリトグラフを元にLPシリーズがつくられたのだろうと想像する。



もうひとつクーリエ&アイヴズの馬車(橇? 下が見えず、判断できない)。こちらはクリークのほとりに建つ農家の馬。荷台には何があるのやら。羊? バッファローもいる。アメリカン・ノスタルジア、アメリカーナである。



こんどはビリー・ヴォーン・オーケストラのクリスマス盤、乗客は楽隊、町から町へと巡るバンド・ワゴンなのだ。ちょっと音を聴いてみたくなるのだが、残念ながら短いMP3サンプルのみ。



これはIAでもらったものではないが、フィル・スペクターのクリスマス・アルバムのつぎに好きなホリデイ・レコード、アル・カイオラとリズ・オルトラーニのThe Sound Of Christmasのフロント。馬車ではなく、橇。いまにも転倒しそうな勢いで疾駆している。なにをそんなに急いでいるのやら――。

樅の木を積んでいるらしい。たとえば、虫の食ったクリスマス・トゥリーを買ってしまい、それが24日の朝、ふいに折れて、子供たちが泣きだした、たいへんだ、もう今夜はイヴなのに、とあわてて知り合いに電話したら、心配ない、大丈夫だ、うちの庭のを伐ってすぐに届けてやる――なあんてストーリーをでっちあげてみたのであった。



馬の部ラストは、LPではなく、CDのフロント。遠く人里を臨む丘の上、野生と思われる馬たちの上をサンタの橇が飛んでゆく。仔馬が「どうせなら、冷たい雪道を歩くより、あのトナカイたちみたいに空を飛びたい」と云ったが、大人馬が「坊主、馬が空を飛ぶとよくないことが起きるんだぜ、北欧神話を読んでみな」と諭している、てな話は無理か! ←Ghost Riders In The Skyを参照のこと。

うーん、二回で完結できると思ったが、力尽きた。1イニングだけ延長戦をやる。

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