短編 ドブス野郎 2
俺の名は、熊崎 光太郎。
全身から死臭を発するメタボの中年。仕事はまだ無い。
今朝、俺は人を殺した。
何か恨みがあったわけじゃない。
けど、奴は俺を蹴飛ばしてきた。
そんなの許せるわけがない。
奴の靴に噛みついたとき、俺の中で何かが目覚めた。
今までの生活の中じゃ見せない、自分の別の面を知った。
俺にだって、こんな残虐な面があったなんて、初めて知った。
あの時、俺は奴にゴミ扱いされた。
その時、奴に俺のプライドがグロテスクなまでに激しく破壊されたのを感じた。
俺は人間だ!
そして、その誇りを汚す者に正義の裁きを!
俺が法だ!
俺が正義を裁くんだ!
決着をつけるんだ!!
そう思った時、既に、俺は奴を刺し殺していた。
いいんだ、これで。いいんだ。
だって、俺は何も間違っていないのだから。
「こーちゃん!なにやってるの!!」
母親の叫びが響く。
そうすると意識が少し遠のいて…
気が付くと、俺はパトカーの中にいた。
手には手錠があった。
「おお、やっと目が覚めたみたいだな」
「俺が正義だ!!俺が法なんだ!!」
「まぁ、落ち着きなさい。良い大人が恥ずかしくないのかね」
「でも、俺が法なんだ!!」
「わかった、わかった」
「ふー、ふー、」俺は荒い息をあげた。
「でも、これから君は我々が信じる法に裁かれるわけだ」
「で、俺はどうなる?」
「知らんな。死刑になるかもしれんし、それは分からん」
「なんだとコラ、離せぇえええええ!!!!」
俺はパトカーから出れなかった。
たくさん抵抗した、でもダメだった。
もう、逃げられない。
自分が犯した罪に面と向かわないといけない。
なんだよ、もう。