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回転扉とロッキー。

先日、あるお店の退出時の出来事。

お会計を済ませてお店を出ようとすると、前にいたおばあさんがお店の回転扉の前で立往生していた。

シックで若干年季の入った感じがするが、しっかりと自動で回る回転扉。

店員がすぐに駆け寄り回転扉の速度を落としておばあさんをエスコートしていたが、おばあさんは扉に入ったもののそこから上手く外に出られずそのまま1周して戻ってきた上、急に立ち止まってしまい後ろに迫りくる扉にぶつかってしまった。

慌てた店員の気遣いをよそに、「年寄りには難しい作りねぇ」と一言、おばあさんは微笑みながら再度取手を掴み、静かに押して外へ出ていった。
鈍い音がしたので痛かったに違いない。

年齢とともに運動神経が衰えてくると、若い頃に出来ていたことが段々と出来なくなってくるのだろう。ここ最近の日々の経過を考えると、光陰矢の如しとはよく言ったものである。

運動らしい運動をしなくなって早3年。
この前も駅の下り階段で踏み外してヒヤッとすることがあった。
移動の疲れ以外の理由が見え隠れしている。

以前は近所のフィットネスクラブのランニングマシンに乗り、経験者に負けず劣らずの傾斜角をつけて20〜30分は走って汗を流していた。

走り始めは快調だが、5分もすると体中の乳酸菌が溜まってきて徐々に悲鳴を上げ始める。そこからランナーズハイの状態まで持っていく10分間が勝負。

時間帯は土曜の夕方。
マシン右上のモニターには、決まってフジテレビの旅番組「もしツア」が流れていた。

あの番組はとても恐ろしいし、「チャンネルは変えないでください」と貼られたテプラとともに利用者にチャンネル変更の権限を与えないフィットネスクラブも悪意に満ちていた。(もちろん意図してはいないと思うが)

その頃毎週決まった時間に入館し、決まった時間に走り始めランナーズハイになるまで藻掻き苦しんでいる私に、ベストなタイミングで山形の温泉の知る人ぞ知る秘湯や京都の人気店の絶品栗羊羹などが襲ってくるのだ。

脳内旅の妄想と和菓子の誘惑に耐え、乗り切った後に差し掛かるランナーズハイ。ここからは同じペースで余計な動きをなるべくしないようにすれば比較的ラクな時間だ。

しばらくすると30分経過のタイマーが鳴る。
古くさい人間なので途中どんな事を考えていても、フィニッシュの瞬間にはロッキーのテーマに切り替わって流れていた。エイドリアン。

入館当初のアンケート目標に記したシックスパック(この時点で目標に盛大な誤りがあったが)になることはなく、そのままコロナ禍に突入したこともありあっさりと解約してしまった。

あれから3年。
コロナの制限もなくなり始め、再びフィットネスクラブに入ってもいいかと思い始めている。

あの回転扉の一件を見て以来、どうにかして足腰だけでも丈夫なままでいたいと思うようになった。やはり足が動かなくなる未来を想像するのが怖い。

フィットネスクラブもリニューアルオープンをして再び会員を募り始めている。今か今かと再びその時を待つユニクロのランニングウェアは、タンスの奥に防虫剤と共に仲良く眠っている。

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