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アンドレ・カンドレ。

踏んだり蹴ったりを繰り返している。

踏んだり蹴ったり。

かの井上陽水の旧芸名「アンドレ・カンドレ」にどことなく響きが似ているので嫌いではないし、口癖でもよく出る。
しかし今回はそんな戯言を放っているどころではない。

先週、左耳が突然聞こえなくなった。
私は睡眠中いびきが出やすいので気道を塞がぬよう常に横になって眠るが、
朝、枕に押さえ込まれていた左耳が聞こえていないことに気付き、どうするか焦った。

前日の入浴の際に水が入りっぱなしだったかと思い、トントンと片足を上げジャンプするも聞こえない。
ソフト綿棒で耳穴をある程度掻くも改善しない。

接客業なのに人の声が聞こえないのではいけないので、休みを貰って耳鼻科へ行く。

「うーん、軽度の外耳炎っぽいですね。普段、耳かきをよくしますか?」

先生の質問に心当たりがあった。
耳掃除を出かける前と入浴後、毎日2回はしている。

掃除のし過ぎで炎症を起こしただれてしまって、耳管を塞いでいるという。

「耳の穴かっぽじってよく聞いとけ!」
前の職場のチームリーダーの謂れを頑なに守った結果、耳が塞がった。
ある意味労災である。

塗り薬を患部に優しく塗ってもらい、耳掃除をしばらく控えた。
数日寝起きすると治っていた。

災難は続いた。

「ふるさと納税で届いた米を少し分けるから取りに来い」

実家の親に呼ばれ年季の入った重厚なドアを開けると、
玄関脇の下駄箱に待ち受けているのは左馬の置物。

縁起物だと言って昔親戚から譲り受けたという。
いつからあるのか知らないが、手前に小物入れを置いてあるので「左うm」までしか見えていない、あまりに見慣れすぎた光景。

寸胴のようにずっしり重い左馬。
目にするたびに「鈍器のようなもので殴られ」という傷害事件のテロップが脳内再生される。
殴られたら痛いんだろうなと今回も考えているうちに油断した。

「ガコンッ」

鈍い音と共に半開きのリビング扉の角に足の小指をぶつけた。
殴られたのは頭ではなく小指だった私は、帰って4秒で膝から崩れ落ちた。

そろそろと出てきた父は、

「おう。無洗米だからお前のようなめんどくさがりでもすぐ食えるから沢山食ってさっさと治せ~」

と小分けの2リットルペットを持たせるだけ持たせて部屋に戻っていった。

私はみるみる内出血の色になっていくのを見て見ぬふりをした。

これ以上病院に行っている猶予はないので、
今は湿布に絆創膏を何重にも巻いて小さな一口バウムクーヘンのようになっている。

まさにアンドレ・カンドレ。

井上陽水は優れた言葉の使い手だ。
その文学的な歌詞は聴く者を陽水ワールドへ引きずり込んでいく。

傷のない子は夜道で
足を踏み出すリズムがわからない
暗いあぜ道 踊り場
怪我を恐れてお家へ戻れない

井上陽水『white』より

心地よい音楽は痛みをも和らげる。
夜ごとに流して騙し騙し過ごしている。

えぇわかってます。
もうあと1~2日過ぎたら先生に診てもらおうと思っています。
なので、どうか急かさないでください。

えぇ、なんせ師走ですので。。。

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