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20220113 労働の夢、沈黙と寡黙、歩いて行ける和菓子屋


 労働の夢をよく見る。コンビニのレジに延々わけのわからぬ客が来続ける夢とか。

 今読んでいる本は小川洋子『沈黙博物館』。
 小説の中で、好きだなあと思う文章は風景描写であることが多いのだけれど、この小説は珍しく台詞に対してそう思うことが多く、付箋を貼りながら読んでいる。
 たとえば
「顕微鏡でどうやって、我慢や屈辱や犠牲や嫉妬を学ぶの?」
 それから
「みんな世界を分解したがっている。不変で居られるものなんて、この世にはないんだ」
「未来が知りたかったら、耳の穴をふさげって」
 沈黙、という言葉が好きだ。沈黙、寡黙。言葉に取り憑かれている私には程遠い存在だ。
 小川さんの小説の持つ静けさが好きなのだけれど、そんな静かな小説でも、言葉にあふれている。物語というのは、言葉と言葉を言葉で繋げてできている。そのことにうんざりしてしまうこともあるけれど、小川さんの世界はちっともそうならない。不思議なことだ。

 最近の私の願いは、おいしいカステラを食べること。カステラは、幸福な食べ物のひとつだと思う。濃い黄色と、それに負けない焦げ茶色。想像しただけで、たまごの栄養と、砂糖のあまみをひしひしと感じる。あの形。幸福といえば丸っこい形のような気がするけれど、そうではなく、礼儀正しい四角。惚れ惚れする。できれば綺麗な紙に包まれていてほしい。手触りの良い、少しざらっとした紙に、少しかすれ気味の印刷で。そんなカステラを食べたい。
 江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』という大好きな小説の中に和菓子屋が出てくるのだけれど、ああいう和菓子屋が近所にあったらいいのになあと思う。歩いて行ける場所に和菓子屋があれば、私はずっと健やかでいられるように思う。

 姉の同級生のお家が和菓子屋で、家は近所だったけれどお店は車で行くような距離だった。そのお店がいつの間にか、家と一緒のところに移転したらしい。
 つまり実家は、歩いて行ける場所に和菓子屋がある。
 羨ましい。


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