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井の頭偏愛

今よりずっと昔の渋谷駅、東横線を降りて正面の改札を抜け、左手の階段を上がる。山手線と銀座線の出口を通り抜けて向かいの階段を下りる。右手に折れて玉川改札前のやや斜めに横切りながら広々とした空中通路を抜けて井の頭線の改札に至る。2階にあった東横線のホームはとうの昔に廃止されたし、玉川改札もついになくなってしまった。

子どもの頃、漠然と好きだったのが井の頭線。親の友達の家が吉祥寺にあって時折連れて行かれる時にだけ乗る電車だった。大人になってもあまり乗った記憶はない。浜田山の友達の家にみんなでぐうたら飲みに行ったとか、飛田給へ試合を見に行くついでに乗り換えに使ったとか、1回だけN'夙川BOYSを見に下北沢に行ったとか、下手すると片手で済むくらいしか乗っていない。なのに思い入れがある。

住宅街を走り抜けるのんびりした感じ、カラフルでポップな外観と、カラバリの多さゆえに賑やかさ。子どもの頃乗っていた先代車両は退役済みだが、今のシリーズも雰囲気は保っている。そして何より先代はまだ地方を走っている。『人のセックスを笑うな』に上毛電気鉄道のこの車両が出てきて、懐かしい記憶を呼び覚まされて前橋まで乗りに行った。自転車も載せられる電車になっていて、田舎をのんびり走り抜ける。井の頭線の頃に輪をかけて風情がある雰囲気で、なにもないけどこれを書いていたらまた行きたくなった。

井の頭線は今年、一瞬の隙間をついてフィルムの試し撮りをしに行ったのだけど、期待に違わず何もない日がほんのり彩られるいい路線だった。

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