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順番が巡ってこない

「最近の若いもんは…」

そういえば、聞かなくなった。
そりゃ、私は若いもんじゃないので私に対して言われることは、ない。もちろん。

私が若いもんの時は、上の人たちが何かっていうと「最近の若いもんは」と言っていた。
大抵は、声が小さいだの、
挨拶ができていないだの、
覇気がないだの、
何考えてるかわからんだの、
甘いだの
どっちかっていうと、どっちだっていいことだった。

そして「俺(私)たちの若い頃は…」と続くのだ。
武勇伝が始まる。伝説に残らない俺伝説だ。
ギューギューに押し込んでくるから息さえもできない。

とにかく40〜50代が皆元気で、男も女もよく喋った。
街はざわめき、いつも誰かがどこかで叫んでいた。
上からの高圧力でペシャンコになりそう
(いや最早ペシャンコだった)だった時、
その力は自然と緩み解放された。

我武者羅、がむしゃら、ガムシャラ

日本語だよね? と疑ってしまう程の字面。
パンチ力半端ない。
きっと、あの頃のあの世代のために用意された言葉に違いない。

我武者羅に走っていた企業戦士たち。
大切にしていた肩書きを失うと、牙を抜かれた何とやら。
静まり返った。

解放された私たちの出番だ。
いざ出陣! とばかりに意気込む。
胸を張って言える時が来たのだ
「最近の若いもんは」と言う順番が巡ってきた。
いや、巡ってくるはずだった。
しかし、驚いたことに続く言葉がないのだ。

最近の若いもんは、丁寧で、器用で、穏やかで、何でもそつなくこなす。
そしてお行儀もいい。

…………なんてことだ!
何でもいいから言ってやろう。
言いたいんだ。言わせてください。
伝説に残らない伝説も聞いてください。
でも、ないのだ。
中途半端なことを言うと痛い目に合うのはどうやら私の方だ。

「若いのにすごいね」
思いとは裏腹に思わず溢れ落ちる言葉。

「そうですか」と若いもん。
あら、否定しないのねと心でつぶやく私を他所に始まった。

「すごいって訳じゃないんですけど」と続く。
武勇伝が始まった、のだ。

デジャブだ。
過去に見たことのあるシーンが繰り返される。

順序は時代によって基準が変化するものだったのだ。
次が自分の順番、と思っていたら目の前でルールが変わっていて他の人の順番になっていた。

順番を守ることしか教わっていなかった。
いくつになっても学びはあるものだ。


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