宴会
一般病棟の中では時折パーティのような、宴会のようなものが開催される。宴会といっても宅配ピザが来るでもなし、アルコールが提供されるでもない。院内の売店で購入した108円のおかしや、誰かの家族が患者に差し入れたチップスターが饗され、うやうやしくボトルが開けられるのはたいていコカコーラ・ゼロである。
この日は、UNOに興じていた。男だけで27歳から50歳の4人である。院内の自動販売機で購入されたコーラとジョージア・ジャパン・クラフツマンを片手にUNOミニマリスタというおしゃれなデザインのUNOを手で遊んでいた。一方でおしゃれではないのは入院患者である我々だ。入院中という言い訳でひげを毎朝欠かさず剃ることを放棄したものもいた。風呂には毎日はいっているが、という体たらくである。誰もが寝巻きであり、見方によれば修学旅行の夜のようである。一人が、明日退院する女性に対して選別のレモンティーを買ってきており、渡すタイミングをうらさびしげともなくうかがっていた。
ところで、コロナ禍でこのような宴会が許されているのか、との疑問には「許されてはいないものの」という煮え切らない答えを返すしかない。看護師であっても人の子、触らぬ精神病患者にはたたりなし、との思いが去来してほとんどの看護師は小規模な無視を選んでしまうのであった。もちろん派手に興じれば怒られる。
頽廃の奥地でUNOをしながら食べるポテトチップスは、病院食の薄味に慣れた我々にとって、いつもよりやけに美味しい。同じものを食べるのであっても、退院してこれと同じほど美味しく感じるような環境で食べることはそうあるまい。一生の中でも、ないだろう。