出かけるようになりましたですの。

わたしはどうしても外せない用事がある以外、外に出ません。
精神科通院、打ち合わせ、考えてみたらそれくらいです。
打ち合わせが入っていない月などは精神科通院のみなので、
1ヶ月に2回しか外出しないことになります。

スーパーやそんなのは、今は彼氏さんにまかせきっています。
コンビニまでタバコを買いに行くことも自動販売機に行くことも怖いです。
汗が顔、ワキ、手に滲んでき、指先が震えます。
ので、勢いをつけるヨッシャアのためにリストカットします。
すると、コンビニ、自動販売機くらいは1人で行けるようになりました。

わたしが出かけるときは、足下かもしくは前だけしか見ません。
周囲をキョロキョロ見渡したら、パニックになるからです。
「キチガイだ」「キチガイが歩いてる」「気持ち悪い」「ウザい」「暗い」
みんながわたしを見ているような蔑んでいるような気がし、
1点集中で周りの視線の先を見ないように見ないようにしています。
なのでよくこけます。

それでもムリなときは、
サングラス、マスク、帽子、イヤホンで完全防備します。
外界から自分の存在をシャットアウトします。



いつの日だったか、用事もないのに、外へ出かけました。
ホントになんでか分かりませんが、なんとなく出かけました。
そのままで外出することはやはり困難なので、
頓服の安定剤を飲みリストカットをしてからでかけました。

普段は外出しないので、家の周囲になにがあるとかも知りません。
あ、こんな近くに郵便ポストあったんや。
お、この自動販売機全部100円やん!
わ、今時コンドームの自販機ってあるんや、うすうす0.02mm。

その日は周りを見渡しました。
なので、そんなものを発見できました。
◯◯市は緑化生産地かなんだかで、
周囲は畑や緑でいっぱいみたいです。

ピンク、黄色、白。
道ばたに咲いている花の鮮やかな色と可愛さに、
すごくうれしくなってしまいました。
ネギって植えてそのまんまにしてたら、
先っちょがマリモみたいになるんですね。
そんなことにも気づきました。

歩いていると、お腹が減っていることに気づきました。
そういえば、朝から何も食べていない。

いつもはこの状態なら家へ帰ります。
外食するほどの金銭の余裕がないからです。
家に帰れば玄米ゴハンでとりあえず腹はふくれる。

洋服や靴やバックはカードを使えます。
だからなのかわたしには買い物依存的なところがあり、
それらを取り憑かれたように注文し散財するのですが、
それを着て、出かけるところがありません。
可愛い服を着ても怖くて出かけられないし、
また出かけても遊ぶためのお金の余裕がない。

家はモノでいっぱい溢れかえっています。
開けてさえいない段ボール箱もいっぱいです。
モノが部屋を占領していくだけで使うことはほぼありません。
放置です。



その日は、段ボールに入ったままになっている洋服をほじくりだし、
一番自分的に可愛いなぁと思うコーディネイトをしました。
カバンも、靴も、靴下も、新品。



ある日、用事もないのに、外へ出かけました。
歩いている途中、石釜焼きの美味しそうなパン屋さんを見つけました。
普段なら買いません、そんなお金もったいない。
だけど、今日はなぜだか「少しくらいイイやん?」と思いました。

そこのお店は、店舗と隣接してテラス席があり、
主婦が集まってパンを食べていたり家族連れもくつろいでいる。
人数はパラパラとした感じ。

なかに入ってパンを選びました。
今日は少し贅沢するぞと決めたのに、
いっぱいのパンのなかから、一番安いパンを探してしまう。
でも「今日は特別な日」と少し高めのピザパンみたいなんを買いました。

いつもなら、それで帰ります。
けれど、帰ろうとしたらパンを買った人には無料サービス、
というコーヒーを店員のかたにすすめられ、
コーヒーを持って歩くのは難しいので、
テラス席に座りました。



時間がゆっくり流れるってホンマなんですね。
風の心地よいテラスでパン食いながらコーヒー飲みながらボーッと。
なんなんだろうか、こんな心地よい時間を過ごした記憶が、多分ない。

わたしは普段家にこもります。
人を避けるためにこもります。
安全なのは家のなかだけだと思い、こもる。

今の家はものすごい日当りがよく、
遮光カーテンがなければ陽射しが強すぎてmacの画面も見えません。

鬱病は日光にあたることが効果的と聞き、
確かに陽の射さない前の家では何もする気が起こらなかったけど、
いまは普通に朝起きられる、という生活をしています。

それが、わたしにとってもっとも効果的な療養法だと思っていたけれど、
その日、パン屋のテラスで過ごした時間はものすごく気持ちよくて、
密閉された部屋のなかより何十倍も心地よくて、
肩の力がダラッと抜け、
心に風穴があいた。
風穴が風を通してくれた。

どんなキツい安定剤よりも、
ずっとずっと心が落ちつき安堵感を噛みしめました。

風を心地よいと感じたのは何年ぶりだろうか。
こんな気分、何年ぶりだろうか。
精神病になった24歳前から、ならば何十年単位ぶりです。

いつも、安全な家のなかにいても、
安心感と同時に追い立てられている感が常につきまとい離れない。
リラックスしているようでしていない感じです。
空気がよどむ。

本当にこんな解放された気分になれたのは何年ぶりだろうか。
健常者の人はこんな心地よさを、
日々ではなくともけっこう味わえるのだろうか。

そう思うと、くやしくて羨ましくて、
そしてそこがあまりにも心地よくて、
パンを食べながらなんだか涙がこぼれました。



出かけるようにしようと思います。
そのために少々リスカしたってええじゃない。
あの心地よさを味わえるのなら全然ええじゃない。
そのうち飽きて切らなくなるって、と思いました。

その日は、ここ十数年のなかで最も最高だと思える日でした。
出かけるように努力します。
100円均一でサウナスーツも買ってみました。
出かけるようになりました。

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