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mediaの歴史/強敵=ラジオの来襲? ~メディアがでっち上げた嘘とは?

今月からは新たに放送の歴史、ラジオ/TVのこれからとメディアの今後についてしばらく考えてみたいと思います

今をさかのぼること80年以上前、ラジオ放送の黎明期、メディアそのものが事件になりました!
今も伝説に残っている「火星人来襲」のラジオドラマが全米で放送された時、途中から番組を聞いた人々は本物の臨時ニュースだと思い込んで国中がパニックに陥り、避難先では多数の死傷者が発生した・・・・・・

と、一般的には記憶されていますが、事実は違うようです。

俳優オーソン・ウェルズがSF小説『宇宙戦争』を脚色した1938年のラジオ・ドラマの放送そのものの聴取率は2%程度とされており、紅白歌合戦で女性ダンサーたちが全裸で踊った!と全国民がパニックになり,NHKに抗議電話が殺到する程の騒ぎ※には実際には達していなかったようです。
でも、往時の新聞記事には恐怖を語る人々の証言や各地で起きたパニックの様子が連日報道されて・・・・・・(※2006年12月31日夜に放送された国民的な人気歌合戦で、後ろで踊っていたボディースーツの女性ダンサーたちが全裸に見えるデザインだったことから抗議の電話が殺到した件)

実はこの新聞報道の方に問題があったというのが真相のようです。
当時、ラジオ放送と言えば新たな広告認知の媒体として急成長の真っ最中、多数の広告主を抱える新聞業界にとっては由々しき事態です。今の時代でいえば既存の放送局vsネット広告の出稿量の変化、みたいなものでしょうか?

当時新聞各紙はこの新興メディアのもたらす危険な側面を強調した論調に。あとから新聞記者が聞いて回った話では‥‥という書き出しのものが実際には多かった様子で、しかもパニック続出、死傷者も発生・・・・・の報道が事実であるとするなら、ウェルズはじめ担当者はタダでは済まされなかった筈でした。でも実際はお咎めなし。

それでは一体なぜ新聞が、このような誇張した報道をしなければならなかったのか?という点ですが、当時のラジオは新興のメディアとして注目を集め、新聞や雑誌から広告主を奪う強敵とみなされていたから。というのが通説です。この新参者に対して旧来のメディアが脅威を感じて、隙あらば刺してやろう、と考えたとしても不思議はありません。ラジオというメディアに不利益な報道なら大歓迎、という訳です。

おまけに新聞社が行った取材というのも実際にはラジオの聴取者本人からというよりも噂をまた聞きしてパニックに陥った人からの聞き取りであった、というような説もあって、実際のところは当時の取材記者に質さない限り確かめようがありません。むしろ、この反響はラジオの影響力の大きさを喧伝することにもなって、放送業界の隆盛にもつながった・・・・・と考えられないでしょうか?

ラジオドラマが隆盛だったのはテレビが普及するまでの数十年の間、今日のコンテンツの中にはリスナーがパニックを起こすような虚構の放送という例はまず聞かれなくなりました(深夜放送であるアーティストの架空の追悼番組をジョークで放送した例はありましたが)

テレビの時代となった現代、事実と紛らわしい放送素材の使い方に映像資料の再利用があります。ニュース画面の中に、資料映像と断りをつけるシーンをよく見かけますが、これも誤解を招かないための方策の一つと言えるでしょう。

火星人来襲のラジオドラマをめぐる都市伝説、それは新たなメディア=ラジオにライバル心を燃やした新聞がでっち上げた、これまた架空の=今日でいえばフェイクなニュースでもあったのです・・・・・


21世紀を迎えて、虚構よりも現実世界の方がはるかに人々の想像を超える出来事が起こるようになりました。ツインタワービルに突っ込む旅客機の姿、5mを超える防潮堤を楽々乗り越えて沿岸の町を襲う津波の動画、手持ち誘導ミサイルの直撃を受けて爆発、破壊されるロシア軍の戦車の姿・・・・・多くの人命が奪われている瞬間の映像さえ、卓上でいとも簡単に再生できる世の中に至るまで、メディアはどんな進化の過程をだどって来たのか?歴史を振り返って検証してみようと思っています。

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