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nikon の「S」なのに不遇をかこったプロネアSって?どうなった?

ニコン一眼レフの最高機種、一桁シリーズがF5に刷新されたのは、折しもアトランタオリンピック開催を控えたころ(1996)。あのサッカー日本代表がブラジルを撃破した歴史的な試合のあった年です。

その当時写真界の期待を一身に担って登場したAPS=アドバンスド・フォト・システムはそれまでの135規格の35ミリフィルムよりも一回り小さなケースにフィルムを収めた新規のネガ、ポジ・フィルムとしてスタート。カメラ。ボディの方も従来機種との互換性はなく新機種の開発と購買を必要としました。でもニコンの場合はFマウント・レンズが使える画期的な機種が発売されています。

それまでにも新しいフィルムサイズ(小型化)をめぐる模索は70年代以前から続けられ、110規格のポケット・カメラもある程度は普及しましたが、レンズ付きフィルム=写ルンですが35ミリ版フィルムを採用するに至って劣勢は明白に。2000年ごろには110フィルムも市場で見かけなくなりました。
それより短命だったのがディスク・カメラ。音楽用コンパクトCDの登場のあと、小さなコマを放射状に並べたディスクをカメラに出し入れする方法でしたが、全くと言っていいほど陽の目を見ずに終わり、人々の記憶からも消えていきました。どちらも小さすぎる画面サイズが災いしたのでしょうか?

そんな反省からかAPSの画面サイズは極力35ミリ版に近いものとされ、カメラ側でパノラマ、ワイド、標準の3サイズが選べるようになりました。要はトリミングの方向が違うだけのものでしたが・・・・

件のAPSシステムでは最高機種としてプロネア600iが登場してF5並みの性能を豪語したものです。ひと世代あとのプロネアSはその次世代機種に当たるもので、ニコンFマウントがそのまま使えるというのは大きな武器でした。
小型軽量を謳うプロネアには従来のFマウントのほかに、APS専用となるiXという小型レンズのシリーズもありましたが、今では使い道が見当たりません。というのも画面サイズの大きな在来の機種には嵌合しないよう、物理的な仕掛けがあったからです。でもそれ以外は名門Fマウントのレンズを使い回せる小型で重宝な一眼レフとして、プロネアSは我が家でも大活躍。注意点としてはレンズの焦点距離を1.4倍程度下駄をはかせて理解しないといけないことぐらいでしょうか?
愛用した28ミリf1.8レンズだと、換算して大体38ミリ見当の画角に。100ミリ望遠は135ミリ相当のレンズとして使える理屈です。

撮影済みのフィルムは現像後に元の姿のままケースごと返ってきます。インデックス・プリントというベタ焼きみたいなプリントが添付され、自分でネガを覗いたり、触れることはまずありません。焼き増しはほぼ業者頼み、一般ユーザーにはそれも埃の侵入や傷を考えたら親切な仕組みでした。私はネガ・チェック用にルーペの付いた専用のビューワーを使い、直接ネガを見ていましたが焼き増しはプロの仕事です。

実はAPSの誕生当時、デジタルカメラという商品も産声を上げていました。いち早く量産化したカシオのQV10,フジフィルムのクイック・ビジョン、ソニーはMDよりも小さな専用の磁気ディスクにデジタル記録するマビカを商品化、でもどれも画質は100メガピクセルにも満たない、玩具並みの代物ばかりでした。

しかし、相手にすらならなかったデジカメたちも21世紀の声が聞こえると急激に性能とコスパを向上させてきます。ニコンは一桁最高機種にD1を開発、シドニーで開催されたオリンピック取材から徐々にデジタル一眼レフがシェアを拡げてゆきます。民生用には高価な代物だったデジ一眼もキャノンEOSkissデジタルの登場以降、一般民生用に広く普及するようになり・・・・APSフィルムには致命的な出来事でした。そもそもプロが使わなかったAPSの簡便さ、小型化はさほど評価されることもなく,APSサイズというCCD画素のサイズにのみ名前を残して消えゆく運命が待ち受けていたのです。

プロネアSをお出かけのお伴にしようにも新しいフィルムはもう手に入りません。入ったとしても、どこで現像を受け付けてくれるものか?行き場を失った元ニコンの上級機種は防湿庫の中で長い眠りをむさぼるしかなくなってしまったのです。iXレンズ群と共に……合掌・・・・・

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