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【ネタバレあり】鬼滅の刃 無限列車編に感じた力強さと悔しさ

当たっている光が強ければ強いほど陰は濃く闇を落とす。完璧そうに見える人や輝かしい経歴には、その背中にほの暗い過去を背負ってるのかもしれない。
命にはハイライトだけではなく悪い時期も当然あって、最終的には時の流れが残酷なほど何もかもを飲み込んで、ただの骨にしてしまう。
それでも、不老不死の完成された美よりも、やがて朽ちる不完全な命が愛おしくなった。


「鬼滅の刃 無限列車編」をようやく見た。
まず目を引いたのは恍惚とするほどの作画だ。ハッキリくっきりとした太い線で描かれた輪郭は非常に力強く、それでいて風景や柔らかく温かみのあるシーンは繊細な色合いが描かれていて圧倒的な映像美に息をのんだ。
ストーリーを抜きにしても、大画面でこの作画が堪能できるだけでも映画館で見て良かった。


今作の代表的なヴィラン、魘夢(えんむ)の強さにゾッとする一方で、人間の弱さが露骨に表れていた。
強さと弱さ、陽光と闇、コミカルとシリアス、一方を描くことでその逆側が相対的な滲み出ていた。

魘夢の声優は本当に凄い。
なんというか、体温を感じなかった。妖気がねっとりと纏わり付いていて不気味だった。中性的で性別を感じない正体不明な声がキャラクターを魅力的に仕上げていた。

アニメーションから突然タッチが変わった、実写のような光景からは、異世界が伝わる。夢という現実とは分断された亜空間の演出に感動した。

後半のシーンでは、オートチューンのかかったエレクトニックなBGMが使われていたのは印象的だった。放送されていたアニメにオートチューンのBGMなんてあっただろうか…どこか和のテイストを感じるものが多かったように思う。記憶違いなら申し訳ないが、過去には無かったBGMからは異次元を感じる。今までに経験したことのない強敵が現れたことをサウンド面音からも感じ取れる。
激しいロックサウンドが演出する戦闘シーンも迫力満天だった。スケールの大きさが伝わってくるし、劇場との相性も抜群だ。
だからこそ、無音のシーンも印象に残っている。ふいに訪れる静寂に包まれる瞬間の緊張感たるや。

ストーリーだけじゃなく、細部までしっかり作り上げる制作陣の愛情や熱量を感じた。



アニメを見ていたのはまだ分厚いコートを羽織っていた1月のこと。
久しぶりにアニメを見ると、旧友に会ったときのような懐かしさ、安心感があった。

敵に懸命ゆえに、意地になった伊之助をさらりと流してしまう炭治郎といった、キャラ同士のモーションがキャラクターに命を吹き込んでいる。とにかくキャラが生き生きしてる。

製作陣の愛と、キャラクターの愛おしさがこの映画の人気を後押ししているのではないだろうか。



と書き綴ってはみたものの、最後の最後に思ったことは、"あんなに悔しいことないな"だった。あの屈辱感や歯痒さを思い出すと再び涙がこみ上げそうになる。

こみ上げる怒りと悲しみ、絶望感。
涙が止まらず、静かな場面だから嗚咽も躊躇われ息を殺して泣く。
ギュッと唇を噛みしめて拳を震わせてる(オーバーな表現ではなく、堪えるのにそうせざるを得なかった)と、炭治郎たちと限りなく近い温度感を味わってることにハッとした。煉獄杏寿郎を無意識に「煉獄さん」と呼んでしまうのも、物語の没入感の影響だろうし、敬称を付けざるを得ない、むしろ付けさせて頂きたい人物像であった。


那田蜘蛛山編に続いて、またしても挫折を味わうことになってしまった伊之助のことを想うと目頭が熱くなる。今までは善逸のかっこよさ/おかしさのバランスが好きだったけれど、伊之助の人間味がたまらなく愛おしい。超かっこいい。さらに強くなって帰ってきてほしい。

前半部分、こんなに残酷なことはないとエゲツない苦しみを味わった。もし自分が敵役として世界にいたならばあれは最高の"遊び"だけど、人間である以上、あの残忍な手口に怒りが湧く。1話で感じたあの絶望をまた感じることになろうとは。リアルじゃないと分かっているからもっとたちが悪い。あんな夢、絶対に醒めたくないに決まってる。炭治郎が家族を思うシーンもたまらなく良かった。
あんなにも真っ直ぐに家族のことを信じられたらどれだけ良いだろう。両親なき今も両親の教育が行き届いてたことを感じさせる。
そして本当に精神力が強い。信じることは疑うことよりも圧倒的に難しいから。

そしてなにより、こんなに力強い物語はない
人を思う気持ちのみを原動力として動く彼らに心を乱されっぱなしだった。乱されるというよりは乱れてた心を整然とさせたといった方が正しいかもしれない。人としてあるべき姿に戻されたような気持ちになった。
個人的に僕の場合は他人に想像力を持ってもっと優しく振る舞うべきだし、言葉に責任を持つべきだ。言葉は刀と違って誤って刃を向けても鞘に納めれば無傷で終わりではない。人に向けた言葉の刃先は決して口の中に戻すことはできない。

それこそ煉獄さんの「俺は俺の責務を全うする」は言葉の厚みが尋常じゃなかった。どんな深い闇が手招いていても、微塵もブレない心の芯は愚直なほど真っ直ぐで眩しくて心が震えた。あんなにセリフを嘘偽りなく言えるなんて一人の男として尊敬した。

煉獄さんの溢れ出る熱意、優しさ、意地、本当にかっこよかった。何事にも屈しない強き人間の生き様に涙が溢れ出る。
花火ように、桜のように、儚く散っていってしまった美しさを想う。

主題歌になっていたLiSAの「炎」は「紅蓮華」のように派手さがある曲ではないけれど、確かな力強さと真っ直ぐな光を感じる。この曲を聞くたびに煉獄さんのことを思い出してしまうだろう。

忘れられない限り、人は死なない。
そういう意味では煉獄さんの魂は消えないだろう。炭治郎達の心のなかにも、見届けたファンのなかに居場所があるのだから。

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