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1917(ほんのりネタバレあり)

久しぶりの映画。友達の発案で「1917」を観たのだけど、恥ずかしながら、今の今まで全く情報を知らなくて予備知識0で観た。
それでも食べ応えのある重厚な物語で書き残しておきたい。

全編がワンカットには見える映像の没入感、尋常じゃない。非日常的な映画館の暗さも相まって、スコとブレイクの感じていたであろう緊迫感をありありと感じる。イスに座っているだけなのに。
戦場の喧騒、それとは対照的な息を潜めなければ殺される瞬間、そのどちらにもある糸がピンと張り詰めた空気感がシームレスに繋がっていく生々しさは疲労感すらあった。

映像もさることながら、音に戦場のリアリティを強く意識させられた。
スコが銃を打った時の爆音が印象深い。
拳銃は引き金を引くと打つ側にもかなりの負荷がかかると聞いたことがあって、耳元であれだけの音が鳴るとしたら、相当なストレスがかかることを追体験させられた。
映画館の音響システムに左右される部分も多くあるだろうけど、耳から入ってくる情報量の多さに驚いた。

物語のシンプルさも驚きだった。
スコとブレイクの2人が目的地まで伝言を伝えるという至極シンプルな構図で、非常に分かりやすかった。戦争系の映画は人物像が入り乱れてややこしくなるイメージが強くあったから。
目的地に向かう主人公をひたすらカメラが追い続けるという意味合いにおいては「はじめてのおつかい」と大体同じだ。状況が分かりやすく目的がはっきりしていたのも、没入感を増させていて物語に入り込めた。もっとも、見えてないだけで本当は更に複雑な人間模様が水面下にあるのかもしれないけれど。
ただ走るだけのシーンにあれだけ大きい意味を持たせられるのもすごいなと思った。生身の人間が持っている生命力をストレートに感じた。
ゴール目前の必死さであったり、身を挺してまで遂行させようとする覚悟であったり、道中で背負った想いなんかを、ブン殴るような勢いでぶつけられた。

ブレイクや道中で出会った仲間が口にしていたジョークやふざけたモノマネが好きだ。
絶望のなかで感じるユーモアは、とんでもない力を持っている。映画だと「ライフ・イズ・ビューティフル」でその魅力を感じたことがあって、最近だとTwitterでアップされていた動画にもあった。新型コロナウイルス感染者が退院し、看護師さんがダンスを披露する内容でとてもコミカルで温かな人間味があった。
スコが赤ちゃんと出会うシーンも同じ力があった。地獄のような場所で感じる光は、容易に想像も出来ないような明るさを持つのだろう。
今まで生きていて、それを実体験で感じたことがないのは、恵まれている証なのかもしれない。
とは思いつつも、今の世界が100点満点の平和の世の中とは言えないような気がしている。
第一次世界大戦真っ只中の1917年とは状況は違うのだけれど、劇中で出ていた「期待は危険だ」は今の世の中でも同じセリフが言える気がしていて、誰かに期待するのは辞めた方がいいなと痛感させられる胸くそ悪いニュースばかりがテレビに写っている。優しい人が損をしている現場をテレビでも私生活でも嫌というほど見る。
優しい人も言い換えれば、ただ詰めが甘いという意味になる。スコとブレイクのように善意による行動も少し距離感を間違えれば、過失となって相手にスキを与え、恩を仇で返される。
力が抜けるような、あのやるせない感じは誰のせいで、誰のためなんだろう。
悲しみをいつまでも引きずってはいけないと言っていたけれど、あの悲しみの根源は相手に期待し、気が緩んだことにある。裏切れられた期待は、生きる気力さえも簡単に奪い去っていく。
結局は誰かに対する期待も、予想外のアクシデントにも失望せず、目的地に向かって最後まで自分自身の足を頼りに歩いていく精神力が今の時代でも大切なのかもしれない。
と、ここまで書き連ねたって、ブレイクの期待にもしっかりと応えたスコの人間くさい優しさも人として忘れたくないなとも、思うのだ。

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