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私の心を動かした初音ミク曲16選(後編)

初音ミクがキャラクターの設定年齢に追いつく16回目の誕生日を迎えたことにちなんで、私の人生を変えた曲や、ずっと共に歩んでいきたい思い出の曲を16作品紹介する。

1~8曲目はこちら👇

※曲順はニコニコ動画での投稿日時順


9. グリーンライツ・セレナーデ / Omoi

照らし出して! グリーンライツ
広がる未来を きっと いつか
キミを照らすまで

私は初めてボカロを知った時からずっと「人間に近いリアルな歌声」のほうが好きだ。だからボカロ曲を聴き続けるようになったのも「そういう曲にもっと出会いたい」という思いがあったからで、そうじゃない曲、つまりいかにも機械っぽい声の曲には正直聞く価値を見いだせてなかった。

2018年7月、ニコニコ動画のランキングトップに君臨していたこの曲を聴いた時も、初めに抱いた感想はそれだった。ミクの独特なキンキン声や音圧のデカさがOmoiさんの作風ということも知らなかったし、『マジカルミライ2018』テーマソングと書いてあるがそのこともよく分かってない自分には良さが理解できなかった。

「なんでこの曲がこんなに人気なんだろう。やっぱボカロって意味わからんな…」

そんなことを思った記憶がある。

しかし1年と数ヵ月後、次に紹介する曲をきっかけに初音ミクやその文化に対するあらゆる考え方が変わった。そして久しぶりにこの曲を再生した時、前回とはまったく違う曲に聞こえた。色んな感情が湧き上がってきた。そしてボロボロ泣いた。

これまでは人間に近い歌声こそが正義だと思ってた。そうじゃないと歌詞に心動かされることも無いと思ってた。しかし時には歌声の違和感を歌詞に心動かされる感情が超える瞬間もあるってことをやっと理解した。前編で紹介した「39」と同じように、初音ミクのことを知る前と知った後で曲の感じ方が大きく変わる、自分自身の変化を象徴する作品だ。

10. ブレス・ユア・ブレス / 和田たけあき

今やもう 誰の目にも同じ ひとりの人間
もう君に 僕なんか必要ない
僕に君も必要ない

来ました。私が今のような人間になってしまった全ての元凶です。(これ以降しばらくは以前書いた記事とほぼ同じ内容なのでご了承ください)

2019年12月のこと。YouTubeでたまたま見つけた『マジカルミライ2019』のダイジェスト映像を興味本位で再生したのが始まりだった。そこでこの曲を耳にした時の感覚というのはまさに最上級の一聴惚れ。曲調とかコールアンドレスポンスとかの雰囲気がめちゃくちゃ好きで脳天をぶち抜かれるようだった。

しかし、あとでよーく歌詞を読んだときに、これはクリエイターと初音ミクの別れの曲だったことに気づく。

私は十年近くかけてやっとボカロが単なるソフトウェアじゃなくて人間と共に歩むパートナー的存在だという価値観を理解できてきた。なのに人間と対等になってしまった初音ミクが必要とされなくなる様はあまりにも残酷で、その価値観を完全否定された気がした。

そんなタイミングで「グリーンライツ・セレナーデ」と再会し、人間と初音ミクの間に交差する「光」と「影」の両面を目の当たりにした。もう感情はぐちゃぐちゃだ。それからの1ヵ月ぐらいはこの2曲を聴いては泣くの繰り返しだった。いや、聴かなくても脳内で思い出しただけで泣いてた。間違いなく私の人生はここからおかしくなっていった。

人々にとっての、そして自分にとっての「初音ミクとは何なのか」を探す長い旅がここから始まる。

11. ぽかぽかの星 / はるまきごはん

らららぼくらが歌えば
きみに届くかい
らららぼくらの軌跡を
またいつか思い出せますように

1年後、「初音ミクとは何なのか」その答えを見つけたくて、私は初めて初音ミクのライブ『マジカルミライ2020』に乗り込んだ。けれどスクリーンに映し出されるミクたちの姿にはイマイチ感情がわかない。私にはただの映像に過ぎないという気持ちが拭いきれなかった。

そんな思いをよそにライブは終盤に突入し、アンコール1曲目に演奏されたのがこの曲だ。私は曲と会場の雰囲気にとても感動していた。疫病に翻弄された1年間を乗り越えてやっと辿り着いたこの場所で、ミクの歌声は私たちを暖かく包み込んで全てを浄化してくれるようだった。演出で実際に雪が舞い、その中でペンライトの光が美しく揺れ動く幻想的な光景は今も忘れられない。

それと同時に、ステージに立つ虚像だけが初音ミクの姿ではなく、人間と初音ミクが創り上げてきた数えきれない「軌跡」の集大成が初音ミクなんだと気づいた。そしていま目の前に広がっている光景もまた、新たな軌跡として初音ミクを創造していくのだろう。

なんて尊いんだ。この瞬間、私は沼に落ちた。

「初音ミクとは何なのか」その問いを私に投げかけた「ブレス・ユア・ブレス」との出会いから1年、奇遇にもそのアンサーソングという一面も含まれている「ぽかぽかの星」によって自分なりの解釈が一つ見つかった。初音ミクとは「ぼくらの軌跡」である。そして自分もその軌跡の一部になりたいと強く思った。

12. Day&Night / Aqu3ra

名前も無い 広い世界で
未完成のまま 落ちていくんだ
君のメッセージ 掴み取って
離さないように 消えませんように

少し時間を遡って、2020年3月頃から新型コロナの影響もあって家にいる時間が多くなり、その暇つぶしとして始めたのが毎日のボカロ新曲漁り。今日まで続く趣味となっている。

新曲漁りを始めたばかりの頃に出会って特に印象深かったのがこの曲。透き通るような美しい音色と歌声に心打たれた。Aqu3raさんは既に知名度のある方だったが、自分がまだ知らないだけでこの世界には素晴らしいクリエイターが沢山いることを改めて実感し、もっと多くの人に出会いたいという思いが新曲漁りを続けていく大きなモチベーションになった。

13. スパイラル・デイズ / 芳田

あの日 描いた夢 集めて
あふれ出す想いを抱えて
星空を走り抜けた ほら、自由ね

これも新曲漁りを始めた頃の思い出。『マジカルミライ2020』の楽曲コンテスト準グランプリに選ばれた作品で、人間じゃないことが信じられない程の美しく力強い歌声に当然の如く魅了された。私が作者の芳田さんを知ったのは一つ前の投稿作品がきっかけだったので、好きになったクリエイターが大きな舞台に選ばれたのも初めての経験で嬉しかった。

そして私の人生を変えることになるマジカルミライ2020の開演直前、いわゆる0曲目として会場で流れたのがこの曲だった。今でも聴くたびにあの時の高揚感と感動がブワッと込み上げてきて泣きそうになる。

14. コーリング / マリー

あぁ このまま1人歩いていけば
夜の環七 信号待ちで
影と鉢合わせ

2021年になるとVOCALOIDより遥かに人間らしい歌声を実現するAIシンガーが急速に台頭した。それは自然な歌声を好む私にとって嬉しいことではあるのだが、あえてボカロらしい無機質な歌声にすることも芸術の一つだと再認識する機会にもなった。

とは言ってもあまりにキンキンした歌声はどうしても拒絶してしまうので、人間とボカロのちょうど中間みたいな「いい塩梅」の声が好きだ。そういう視点で個人的に印象深いのがこの曲。平坦で冷たい歌声なのに、隔たるものなく心にスッと入ってくる不思議な優しさを感じた。

15. 明晰夢とブランコ / 百夜カエル

気づいちゃったの これは夢の中
世界がだんだん迫ってきてるんだ
もう少しで終わってしまうんだね
ずっと馬鹿みたいに 笑っていられたらな

これも人間味のない声だからこその良さがあって初見で聞き入った曲。夢の中のようにノスタルジーなサウンドと歌声がとてもマッチしている。

そして何と言っても哀愁感漂う歌詞が好きだ。夢から覚めたくない、もっとこの場所にいたいという気持ちはいろんな人のいろんな人生に投影できる。自分だったら、それこそボカロと出会って人生が変わった「今」の心境と重なる部分があった。

ボカロに深く心酔するようになって約2年、少しづつこの世界の事を知って沢山の刺激を受けたあの頃と比べれば、新たな出会いも平凡に感じてしまうようになっていた。もしかしたら「もう少しで終わってしまう」のかもしれない、なんてことを思ってしまった。

16. Ours / *Luna

ここから始めたらいいさ 何度でも
だって僕ら人生一回目
見失って 間違って 折れたって
また夏は巡ってきたんだから

最後に紹介するのは、現在進行形で私の心の支えになっている、そしてきっとこれからの人生を変えてくれると思う曲。

私の年齢は四捨五入すればもう30歳の方が近い。今までの人生でもう取り返しのつかない間違った選択をしてしまったこと、あの時ああしてれば今より良い未来が待っていたかもしれないと思うことは沢山ある。それでも「大丈夫、まだ間に合う」と、この曲がそう強く背中を押してくれた。

私事になるが、これから再び人生の大きな選択をしなければならない時が迫っている。その時もまたこの曲に与えられたエールを胸に、やり残さぬよう、思い残さぬよう、自分が進みたいと思った道を歩んでいきたい。


私が本格的にこの世界の住人になったのはほんの3,4年前だし、ずっと昔から初音ミクを愛し続けている人々に比べれば私の愛なんてまだちっぽけなものだ。だけどこうして思い返せば、そんな私でも初音ミクとその向こう側にいる人のメッセージに何度も心を動かされてきた。今まではプレゼントをもらってばかりだった。

だから今度は何らかの形でお返しをたい。私にはこんな拙い言葉で想いを発信することぐらいしかできないけれど、それでもこれが初音ミクを創造する軌跡のほんの一部にでもなってくれたら嬉しい。

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