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読書感想 #5

『六人の嘘つきな大学生』

2022年本屋大賞ノミネート作。
2011年のとある有名企業の最終選考にのぞむ6人の就活生。無事最終選考の課題をクリアして全員での内定獲得を目指してミーティングを重ねていくけど。。。という感じ。ネタバレになるからあんまり詳しく書けない(笑)

この本は、就活生が主人公なのだが、自分が就活生の時ってどうだったかなとか二十数年前を思い出しながら楽しく読むことができた。

当たり前だけど、最近のものを読むと、最近の事情が良くわかるというか、そういうものかという気付きもある。

私が就活生の時代は、大学3年の終わりくらいに、マイナビとかリクナビから様々な企業を紹介した冊子と、説明会への応募はがきが付いた『就活グッズ一式』的なものが届いた。4年の春までに、なんとなく興味がある企業の説明会に参加して、エントリーシートってのがあったのか忘れたけど、何となく選考に進んでいた感じ。

面接を2~3回こなすと内定が出るという流れだったような気がする。確か、私達の1学年上までは『交通費』が支給されていて、先輩たちからはそれを目当てに、そこまで興味がない会社でも説明会に行った方が良いよと言われていた!なんというおおらかな時代(笑)

学生生活で一度も自分の強みだとか、アピールできる体験なんて考えたこともなかったのに、急に本屋で立ち読みしたノウハウをベースに自己PRなるものをこしらえて、半ば強引な志望理由を考えていた。

この本にも似たような描写があった時は、二十数年たっても変わらないもんなんだなと思ったりもした。

物語に登場する『人事部長』が語っていた言葉が

『相手の本質を一瞬で見抜くテクニックなんてない。面接なんて長くても1時間。そんな短時間で相手の何がわかる。3,4回繰り返してもたったの3~4時間。何もわからない』

『将来的に何をやらせるのかは決まていないけど、向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選らぶ。日本国民全員で作り上げた、全員が被害者で、全員が加害者になるバカげた儀式』

この言葉って、かなり真理をついているなと。

ほとんどすべてが『運』で決められてしまう就職活動で、自分の望む会社に落とされたとか、面接でうまくしゃべれなかったとか、そういうことで悩んだり、苦しんでいる、ということは私はなかったけど、周りではよく見かけた。

私自身は、学生時代から『運』『縁』『タイミング』というのが、何事においても大事で、それが欠けるとうまくいかないということをなんとなく意識していたので、就活で病むということはなかった。ようはいい加減だったのだ(笑)

いわゆる『お祈り』メッセージ(私の頃はメールでなく封書だった)をもらっても、あの会社とは『縁』がなかったとか、自分にはもっとあう会社があると勝手に思っていた。

結局苦労して入社した一部上場企業も10年で辞めてしまったし、そんなもんなんだと思う。

年を取れば食の好みも変わるように、時が経てば自分にとってのあこがれの会社や働き方だって変わる。学生時代の一時の思いだけで、そこから先の自分の人生を決めてしまうなんて馬鹿らしい話だなと。

その時が楽しければ続ければ良いし、苦しく楽しくないのであれば別の道を行けばよい。ただそれだけなんだと思う。

学生という、なんとなくふわっとした時代の後半に、自分の将来をある程度決めなければいけない選択を迫られる状況ってやっぱり大変だよなとか、そこで心が折れたり、変な言動をしてしまったりということが起きるのは仕方ないよなと思ったり。

ミステリ小説を読んだはずなのに、就職活動という欺瞞や矛盾に満ちた制度について、改めて考えさせられたり、自分の過去を振り返れたりという、なんとも読み応えのある内容だったと思う。

とあるカフェでこれを書いているが、まさに目の前に就活に臨むための自己PRを作っていると思われる学生が!結構悩んでいる感じなので『これ読んで!』と、思わずこの本を渡したくなるが、それは、まあ、野暮だよね(笑)

これから就活を迎える学生さん達にも、ぜひ読んでもらいたいし、就活なんて所詮こんなもんという、気楽な思いで体験を楽しんでもらいたいなと。

就活なんて長い人生で見たら、ほんの一瞬、点のようなものだから。

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