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1980年代。就活の伝説。

 とても昔の話で申し訳ないのだけど、就職活動という言葉が、大学生の間でも一般的になってきていた頃だと思う。髪型を整えたり(当時はリクルートカットと言われ始めていた)、急に日経新聞を読み出したりする人間は、多かった。

 その就職活動の厳しさに関しては、今と比べたら、ゆるいとは思うのだけど、それでも、面接を通して、初めての「社会」へ、どう対処したらいいのか、という戸惑いに関しては、共通するものがあると思う。

就活伝説

 だから、昔でも、就職活動に関して、伝説みたいなことがあり、それが半分は本気で信じられたりもした。SNSもないから、多くはクチコミだったのだけど、誰から聞いたのかもわからず、どこまで本当なのかも、確かめようもなかった。

 今でも、覚えているのは、こんな「伝説」だ

 面接を受けている大学生が、面接官を前に、何を聞かれても黙っている。
 その時間は、そのまますぎて、本当に一言も言わないままなのか、と思われたのだけど、これで終わりです、と告げられた後、立ち上がる前に、その大学生は一言だけ発した。

 男は黙って、サッポロビール。

 それで、その大学生は、採用が決まった。
 その会社は、サッポロビールだった。

サッポロビールのCM

 たぶん、読んでいる方の多くは、何を言っているのか意味が分からず、だけど、ある年代以上の方には、広く知られている話のはずだと思う。

 私が聞いた就活の「伝説」は、1970年のテレビコマーシャルが「元ネタ」になっている。

 黒澤明の映画出演で、世界的なスターになっていた三船敏郎が、ビールを飲んで、何も言わずに、その画面に「男は黙ってサッポロビール」と文字だけが映される、という今聞いても、思い切った企画だとは思う。

 その印象が強く、ずっと残っていたから、1980年代の「就活伝説」の「元ネタ」として、まだ生きていた事になる。

 今振り返ると、その「寿命の長さ」に、驚くような気持ちにもなるけれど、当時は、一般的に「情報の寿命」が長かった、ということの証明のように思うから、やっぱり、どこかのどかだったのだろう。

コミュニケーション能力

 21世紀の「就活伝説」の詳細には、情報に強くないので、恥ずかしながら、分からない。ただ、もしあったとしても、おそらくは、「男は黙ってサッポロビール」よりも、さらに高度なコミュニケーションが要求されるような「就活伝説」であるのではないか、と想像できる。

 それは、この30年の間に、就職を望む人間に求められる能力が、圧倒的に「コミュニケーション能力」だったからで、この能力も、実は、どう評価していいのか分からない上に、学歴以上に、生育環境での文化資本の差が、圧倒的にモノを言うアンフェアな基準なのではないか。といった指摘も、どこかで読んだ記憶があるから、選考基準としては、ペーパーテストよりも、納得がいかないものである可能性がある。

面接官のコミュニケーション能力

 私自身は、1980年代に新卒で就職したものの、3年間で会社を2つ変わり、その後、フリーランスでライターを約10年して、その後、仕事もやめて介護に専念する時期が、また10年以上続いた後に、学校へ通って資格をとり、今は支援職を細々と続けている。

 そういう人間なので、会社組織については、語る資格はないという自覚はある。

 だけど、21世紀の就職活動が、かなり大変になっていることは、情報としては少し知っているし、直接聞いたこともあるし、2010年代に自分自身も就職活動(と言うには、ささやかですが)をしたので、少し分かるように思う。

 そういう時間の中で、「面接官のコミュニケーション能力」に関しては気になり続けている。

 採用する条件として「コミュニケーション能力」をあげるのであれば、面接官の方が、就職活動をしている人間よりも、高い「コミュニケーション能力」を持っている必要があるのだけど、例えば、今の40代や50代に、そんなに高い能力があるのだろうか、という疑問がある。

 それは、会社組織について、無知である私が言う資格はないのかもしれないし、会社に勤めている時間の中で「コミュニケーション能力」が磨かれている可能性もあるのだけど、個人的な印象では、中年になってから、学校に通った時に痛感したのだけど、現在の20代や30代の方が、その基礎的なコミュニケーション能力は明らかに高いように思った。


 もちろん、それは、ほとんど根拠がない個人的な印象に過ぎない。

 だけど、「就活伝説」として「男は黙って」が語られていて、もちろん、冗談であるとは思いながらも、どこか半分は信じていたし、全く同じでないにしても、似たようなことがあって、本当に採用されたのではないか。というようなことを、1980年代の学生は思っていたはずだった。

 それは、今、考えると、自分も含めて「男は黙って」の「就活伝説」を少し信じたりするような、あまりにも「コミュニケーション能力」が高くないエピソードだと思うし、その時代に学生だった人間が、今、「面接官」として、学生の「コミュニケーション能力」を査定しているかと思うと、なんだかモヤモヤする。


《見出しの写真は、1980年代のサッポロビールの広告です。坂本龍一が写っていて、この時代は、まだ“男は黙って”的が美学が残っているように感じます。坂本龍一は、2017年にもサッポロビールのCMに出ているので、30年ぶりの登場になると思います。》



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