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自由律 #02

気を遣わせてることを分かってはいる

速く動くと寒い

難しいことを難しいままで

曖昧な気候が呼んだ蕎麦という選択

店員じゃないがテーブルをそっと拭く

見よう見まねのコイントスをしたばかりに


吉本興業所属のピース・又吉直樹さんを敬愛している。

YouTubeチャンネル「渦」をきっかけにして「カキフライが無いなら来なかった」(幻冬舎) (2009年)を知り、注文。Amazon Primeで配送された翌日のうちに読み切った。

自由律俳句の面白さに出会うと同時に、又吉さんの他作品を読みたいという思いが湧き上がり、Amazonでまとめて注文した。

届いた作品の中から「夜を乗り越える」(小学館よしもと新書)(2016年)を最初に読むことにした。

芸人で、芥川賞作家の又吉さんが、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、「なぜ本を読むのか」「文学の何が面白いのか」「人間とは何か」を考える。文学に出会い、助けられ、いかにさまざまな夜を乗り越えてきたかを顧みる、又吉さん初の新書である。

その中で、以下のようなことが書かれている。

僕が本を読んでいて、面白いなあ、この瞬間だなあと思うのは、普段からなんとなく感じている細かい感覚や自分の中で曖昧模糊としていた感情を、文章で的確に表現された時です。自分の感覚の確認。つまり共感です。

この文章を読んだ時、まさに共感した。又吉さんが太宰治を敬愛するのが、まさに自分が又吉さんを敬愛するのと同じ理由であることが理解できた。太宰の作品も読んでみたいと思った。

わからないことは面白くないことではないんです。簡単なことを難しくしたり複雑にする必要はないですが、複雑なことを簡単にして理解するよりも複雑なことを複雑なまま理解できた時の方がより面白いと僕は思っています。
「簡単なことを複雑にするな」「複雑なことは簡単にしろ」と当たり前のように言われていますが、それでは複雑なことがかわいそうですよ。

俗世間的な話はしたくないが、ここ数年TikTokで見られる十数秒の動画が人気だ。YouTubeで見られる切り抜き動画が人気だ。様々なプラットフォームに「観る」より「見る」コンテンツが溢れる中で、人々は「分かりやすさ」を求め、つまり制作者には「分かりやすく」面白さを伝えることが求められている。
難しいことを難しいまま理解できた方が絶対に楽しい。小説や映画などの時間をかけて向き合い解釈していくコンテンツの、「ストーリー」や「行間」を理解してこそ得られる本質的な面白さ、読後感、余韻など、言わば「分かりにくい」面白さの価値が見直されることを僕自身も願う。

僕が今、お笑いのトークライブで喋ることは、芥川賞の授賞式のことやロケで海外に行ったこと、そういう大きいトピックになります。お客さんの興味としてもそれがいいと思って話しています。
でも昔、僕はブログやエッセイで、毎日ほぼ同じ日々の中で無茶苦茶細かいポツンと浮上した感覚や、ポンと凹んだ感情について書いていました。〜〜〜 知り合いが十人いるかいないかで、一週間の内、一体何人と喋ったかどうかと言う世界の中で生きていました。そんな中、自分の意識に上ってきたことを書いていました。引きはありませんが、そっちの方が面白かった可能性は高いと思っています。

今の自分を昔の又吉さんに重ねた。
心の、すごい小さいところを書かざるを得ない。焦っているし、悔しさもある。しかし、その怨念みたいなものが、文章を書くための、その他創作のためのモチベーションになっていることは確かである。

そして最後に次の言葉を紹介する。

太宰を読んでも、芥川を、漱石を読んでも僕が感じるのは、「俺はこんなもんじゃない」という想いです。「もっと認められてもいいはずだ」と言う気持ちです。創作だけではなく、本当はこうなりたいと言う自分と周りからの評価の違い、自分の置かれている現状と理想の差異、そのギャップにみんな苦しんでいました。それが仕事だけではなく、恋愛やお金と増えていき、苦悩はどんどん膨らんでいきます。彼らはそれに対して完全な答えは出していません。でも、それぞれどこかにはたどり着きます。それでも生きていきます。
そして抱えてきた秘密をみんなの前で曝け出します。発表して開き直ります。坂口安吾は『堕落論』で「人は正しく堕ちる道を堕ち切ることが必要なのだ」と書きました。太宰は底辺から言葉を吐き出します。何もできないのが武器だと。それらの考えは、そのまま自分にも移植できる言葉でした。

これは自分にもそのまま移植できる言葉だ。

結果を出したいともがく、もどかしい日々。早くゴールに辿り着くことはできない。前向き思考の本に書いてある安易な答えに飛びついても、誰も結果に責任は取ってくれない。小説の主人公は迷っている。答えを出そうと必死になっている。僕たちもそれを辿る。そして考える。人生に必要なのは悟りではなく迷いだ。迷い続けている状態が大事だ。

芥川、漱石、坂口の作品を読んでみたいと思った。
だがやはりまずは太宰の作品を読む必要がありそうだ。

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